「ジャンヌ・ダルク―歴史を生き続ける「聖女」」

ジャンヌ・ダルク―歴史を生き続ける「聖女」 (岩波新書)

ジャンヌ・ダルク―歴史を生き続ける「聖女」 (岩波新書)

Fate/Apocryphaでジャンヌがフィーチャーされていたので、あらためて関心を抱き、勉強用に読みました。筆者は真摯なジャンヌ・ダルク研究者であり、岩波書店らしい真面目な一冊でしたが、読みやすさも兼ね備えている良著です。


僕の知識としてはだいたい一般的な、「“神の啓示”を受けた少女がフランス軍に加わってイギリス軍を追い払ったけれども異端扱いされて火刑になってしまったよ」くらいの少々あやふやなものでしたが、本書でかなり知識がしゃっきりした感がありますね。


一番なるほどと思わされたのが、ジャンヌの生涯については伝説的な霧の中にあるわけではなく、ほとんどの部分はっきりと解っているということです。異端裁判と復権裁判のところできっちりと記録が残されているため、ある意味では同時代の人の中でもトップクラスに判明しているといえるわけですね。無論、その異端裁判は不正とでっち上げに満ちたものであったわけですが……。


本書で紹介されるその記録、特に復権裁判での故郷の村の人々の証言を読むと、ジャンヌが普通の、真面目で信仰心の篤い少女であり、村の人々から愛されていたという様子が伝わってきて、感慨深いです。それだけに、なぜその後にあれほどの事をなしえたのかということがやはり謎として感じられてくるのですが。


ちなみに僕は、何十年もあとの復権裁判なのだから、形式的なものだったのではないかというイメージでいたのですが、上記のように、生前の彼女を知る人々にも話を聞き、優秀な裁判官もつけて本格的にやっていたのですねえ。やはりそれだけ当時の人から見てもジャンヌの裁判がインチキだったということなんでしょう。この裁判の実現にあたって、ジャンヌに助けられたオルレアンの人々が尽力したというのがまた泣かせる話ではありませんか。


さて、本書は実際のところ、彼女の生涯を追うというよりは、彼女が当時から現在までどのようなイメージで語られてきたかということを主題とした一冊です。中には、ジャンヌが誰かの傀儡であったとか、実は生き残っていたとか、さらにはただの農夫の娘ではなく王女だったのだというなかなか荒唐無稽な説まで出てきたとか。筆者は源義経の例と対比していますが、個人的には「シェイクスピア別人説」を連想しましたね。そう言えばシェイクスピアに関しても先日新書を読みましたが、これもFate/Apocrypha関係なので、Fateの勉強させる力はすごいなあ……。


閑話休題。そんなわけで、彼女の本当のところの不思議である、「神の声」とは何だったのだろうかということや、隠れていたシャルル王太子を探し当て、彼の信頼を得たあたりの奇跡的な出来事についての考察は薄いです。その点についてはもっと別の本でも見てみましょうか。

「ビアンカ・オーバーステップ」

ビアンカ・オーバーステップ(上) (星海社FICTIONS)

ビアンカ・オーバーステップ(上) (星海社FICTIONS)

ビアンカ・オーバーステップ(下) (星海社FICTIONS)

ビアンカ・オーバーステップ(下) (星海社FICTIONS)

あの筒井康隆氏がラノベに挑戦ということで、局所的に話題になったらしい「ビアンカ・オーバースタディ」。そのオーバースタディの二次創作にして正統続編にして新人賞受賞作がこちら、ビアンカ・オーバーステップとなります。僕は賞の界隈には詳しくありませんが、そもそも二次創作で新人賞取っちゃうって、前代未聞ではないでしょうか? 確かにオーバースタディ(以下「前作」)のあとがきで筒井さんは続編のタイトル(だけ)をにおわしていましたが、それに応えて書いてしまう作者も並大抵のものではありません。後書きによると26歳でこれを書いたとか。やっぱりすごい人はすごいもんですねえ。


で、そんな今作の不思議な出自はさておき、中身です。前作の主人公にしてヒロインであるところの北町ビアンカが突然姿を消してしまう。姉を心底愛する妹の北町ロッサは、ビアンカを救い出さんと未来へと跳ぶのでした!


一言で言えばかなり面白かったです。下巻なんかもう一気呵成に読んでしまったくらいには。まず主人公のロッサ。彼女はオーバースタディではただの可愛らしい妹キャラ的な雰囲気でしたが、本作では意志の強さと行動力と喜怒哀楽とがたっぷり付与された、なかなかはっちゃけた感じのキャラになっていましたね。もっとも、前作の時点で多少そういう要素は見え隠れしてましたし、違和感はありません。ただの「良い子」では終わらない主人公らしい魅力が加わりましたね。無論、姉、ビアンカに対する愛情と執着は前作据え置きとなっております。いや、こちらも前作以上かな?


また、今作は前作よりも相当SF色が強くなってました。タイムトラベルに異世界旅行つき。宇宙人、未来人、異世界人、超能力者バッチリ出てますね。前作からしてそうでしたが、ハルヒを意識しているところはあるんでしょう。イラストもいとうのいぢさんですし。


「最未来人」の魔の手に追われつつ姉を求めるロッサの辿り着く先とは? 読み応えある一作でした。フィクションでこれほどはまり込んだ本も久々かもです。


正直、僕は前作・オーバースタディはそれほど評価してません。筒井さんが書いたという話題性以外はとりわけ見るべきところはなく、まあ、つまらないとまでは言わないまでも、凡庸だったなと言うくらいです。ただ、そのオーバースタディが今作のような傑作を生む土壌になったとあらば、その功績は大きいと言えましょう。う〜む、さすが筒井さん、なのか。


その一方で、本作はどうしても「続編である」ということで敷居が高くなるのがもったいない作品でもあります。一応前作抜きでも読めなくはなさそうですが、普通はしないでしょう。ああもったいない。この内容ならオリジナルでもいけただろうにと思えてしかたないのですが、そこはきっと作者のモチベーションの根幹に関わる部分だったのでしょうねえ。


ともあれ、前作込みでも抜きでも読んで見る価値のある作品だと思いますよ。おすすめです。



で、こっからがネタバレ感想なのですが。


実はラストが理解しきれてません。ここがスッキリ頭に入れば掛け値なしに超傑作認定できたのですが、何回読み直しても分かったような分からないような? 「玉虫色の彗星」がビアンカ異世界での姿であって、彼女は危機のロッサを助けるために急いでいたってことなんでしょうか。でも、だったらその彗星をなんでビアンカが見てるんだろう。もしかしたらそのビアンカビアンカになったロッサだったんだろうか? でも彗星の話は異世界なんじゃなかったっけ、という感じでモニャモニャしております。


あと、スカルラットたちが可哀想過ぎてどうもね。彼らを殺し、世界を消滅させていくいくロッサについていけない感もありました。いくら創造主であってもねえ。ロッサには、多少性格がくだけても根底のところで「良い子」であってほしかったという読者の願望も込めての感想ではありますが。


だから本作で一番楽しかったのは、ロッサとアルトが未来世界観光しているところだと思うのです。短い間でしたが、ほのぼのでしたね。


作中でも言及されてましたが、紫色のクオリアを思い起こさせる物語でもありました。どちらも傑作ですが、なぜ主人公がそんなに根気と信念と記憶を持ち続けられるのかという点では紫色のクオリアのほうが説明できていたと思います。量子世界でたくさんいる自分たちが能力を拡張してくれるということで。ロッサは普通の人間だったはずなんですが、どこでこうなったのか。僕が読み取れてないだけかもですが、そこがちょっと不思議でしたね。

カードキャプターさくら クリアカード編 第1話「さくらと透明なカード」

そのハイクオリティな出来栄えとさくらの可愛らしさで一世を風靡したカードキャプターさくら。1期放映より約20年の時を経てまさかの新作開始とは!


嬉しいような怖いような心地で1話を視聴しましたが、これが予想以上に良い感じであり、至福の一時でした。時の流れを感じさせないキャラクターたちに、良い意味で時代の変化を感じさせる画質の高さ。1期も十分に高い画質だったんですが、それを遥かに超える美麗さではないですか。TVアニメでこれだけ精細度の高い映像って、ひょっとしたら初めて見たかもしれません。


さて、お話の方は原作未読なのでまだなんともですが、中学生になったさくらと小狼と知世たちでした。正直、小学校の制服とあまり見分けがつきませんが……。なぜか透明になってしまったカードをどうにかしていくということで、しっかり知世ちゃん製コスチュームに身を包んだカードキャプターの活躍を堪能できそうでありますね。


OPとEDもグッド。OPは1期を彷彿とさせる部分があり、EDは本編とは一味違う画風が素敵です。


浅香監督はじめ当時のスタッフが揃っているので期待はしていましたが、これなら文句なく、今期一番楽しみな作品となりそうです。


それにしても、中学への通学はローラースケートなしですか。まあ、もともと危険そうではありましたが。

株な日々 大納会2017

今年は30日が土曜日のため大納会が1日早いのですね。微妙に損したような気がしないでもないですが。


年末株価、26年ぶり高値水準…6年連続で上昇(読売新聞)


さて、僕の今年の運用成績は+9.66%でした。……日経平均は19.1%も上昇したというのになんということでしょうか。これでは普通にインデックス投資をしたほうがマシだったという話です。情けなや。


さらに言うならば、このプラスというのも最後の12月になってようやく稼げたもので、11月末まではマイナスでした。マイナス終了の危機を救ってくれたラクオリアとソルクシーズには感謝の言葉しかありませんが、これだけ苦労したのも要するに「そーせいが悪い」と、つまりそういうことです。


資金の約半分を振り向けているそーせいが上昇どころか年初から20%以上の下落。見せ場らしい見せ場もなく、暗い日々が続きました。逆に言えば、残り半分の資金だけ見ると+40%以上は出せてるんですけどね。印象的には「他の銘柄で勝っても勝ってもマイナスになる」という年でした。


そんなに駄目ならそーせいを売れば良いじゃないかと言われればもっともな話なんですが、もうここまで来たら一蓮托生。銘柄に惚れるとはこのことですが、なまじ我慢してきちゃっただけに、引き返せないサンクコスト感があるのですよ。買値が7,000円台なので一応含み益状態ではありますし。


ともあれ、株価はともかくそーせいの新薬開発は順調であると認識していますので、また上を向いてくれる日を待つばかりです。来年こそ巻き返しできますように。……そうそう、第2の主力株であるユニバーサルエンターテインメントも来年はもう少し輝いていただきたい。お願いします。

株な日々 ぴあ売っちゃった

リハビリ的に軽く更新。


このたび、以前「この優待が続く限りぴあ株を保有し続ける所存です」とまで宣言していたぴあ(4337)を売ってしまいました。もちろん、優待は変わっておらず、毎年ありがたく図書カード5000円分を頂いていたのでありますが、なにしろここに来て株価がぐんぐんと上昇。結構すごいところまで駆け上がってました。



で、これが業績の裏付けがあるのならまだしも、僕には今ひとつ上がっている理由がわからない……。バブル的な上昇ではないかという不安もあり、とうとう利確の誘惑に抗しきれなくなってしまったのでありますよ。


約1200円で買って6500円で売り。100株なので税金を引いても利益は40万円以上です。宣言を翻してしまったのは少々心苦しいものですが、5000円の図書カード80年分ですからねえ。しょうがないと。これでぴあが今後もぐんぐん上昇していったら「最初の気持ちどおりずっと持っておけば良かった」となるのですが果たして? 逆に適当なところまで下がってきたら、また買いたいものですけどねえ。

「撫物語」

撫物語 (講談社BOX)

撫物語 (講談社BOX)


いやあ、本書に出会えて良かったなあ。そんな思いに至らせてくれる「物語」でありました。


とにもかくにも千石撫子です。物語シリーズをほぼアニメで追っていた身としては気になってました。なにせ彼女、なでこメドゥーサとかひたぎエンドとかで散々なことになってしまったではないですか。多くの人を傷つけて、自らも傷ついて。何より暦への恋心すら本当ではなかったようなまとめ方にされて。


これで終わりではあまりに可哀想すぎる、という後味だったのですが、ふとしたことでアフターストーリーである本書の存在を知り、急ぎ手に取ったわけなのですよ。


のっけから「キャラがブレブレ」とのメタ的自虐ネタが入りつつの撫子の一人称。考えてみれば自分はこれまで彼女の一人称を読んだことが無かったので、新鮮でした。やっぱり一人称だと、阿良々木君目線とかで見た時の第三者感とは近さが違って良いですね。そして、いつのまにやら彼女の友人になっている斧乃木余接。今作ではまさに頼れる名パートナーでありますが、考えてみればいきなり月火をなぎ倒したこともあって、余接の最初の印象は悪かったものです。その後出番が増えつつも基本はただの脇役くらいに思っていたのに、さらに続くこの存在感の上昇はなんとしたものでしょうか。西尾さん余接が好きなんでしょうねえ。


「次の完成原稿に、お前の顔写真を貼った上で、投稿することだ。そうすれば編集部がお前を美少女マンガ家として、祭り上げてくれることだろう」


本筋とは関係ないのに名ゼリフです。


……それはさておき。いろいろあって開き直ったらしく、堂々とマンガ家を目指すことにした撫子。これだけでも以前の撫子とは違うぞというところですが、式神のトラブルを通して過去のいろいろな自分達を向き合い、乗り越えていく、あるいは受け入れていくという展開は、感慨深いものがありました。


まだまだ彼女は未熟で、だめなところもたくさんあるのかもしれません。でも、誰に頼ることもなく自分の力と意思でピンチを乗り切り、そしてあらためて失恋を受け止めた。間違いなく、一歩大人になったお話なのだなと思わされました。


あと、やっぱり撫子の暦に対する想いは恋心だったんですよねえ。軽々しく「恋に恋してただけだ」なんて切り捨てられて良いものではない、と。このことがはっきりしただけでも本書の意義は深い、と思うものでありますよ。


いつの日かきっとひたぎにも、暦にも再会して謝ることができるのでしょう(他の物語でもうしてるのかもしれませんが)。心配ばかりだった彼女の未来でしたが、明るさが十分に見えてきました。良かった良かった。


これで本書を読む前は言いにくかった言葉がはっきり言えますよ。


「頑張れ、撫子」と。

Fate/stay night [Heaven’s Feel]

我々は13年待ったのだ―――とでも言うべきところでしょうかねえ。とうとうこの時が来たか、と感慨深いFate・桜ルート、Heaven’s Feel編の開幕です。原作プレイ時に桜はかなり印象に残ったといいますか、応援したくなるキャラだったので、ここでようやく日の目を見ることになるのは嬉しいですねえ。もっとも、このルート自体は長くて鬱陶しくてグログロしいので一度しかプレイしておりません。適度に忘れているのが映画鑑賞上、さらにプラスになりそうです。


てことで、映画の内容ですが、3部作とは言えやはり多少のダイジェスト感はありましたかねえ。そこは原作の長さを考えればしょうがない。もっとも、UBWの劇場版と比べれば全然ゆっくりですが。逆に言えば、ケチを付けられそうなのはその程度で、全体的には大変力の入った素晴らしい出来栄えでした。監督のパンフレットコメントからしても、桜への愛を感じますよ。


構成として、最初に士郎と桜の出会った時期から描き出しているのが良いですね。だんだんと絆が深まっていく二人の姿があるから、桜がヒロインであるということが観客にもすんなりと入ってきます。そして、物語はおなじみの聖杯戦争開幕へと流れていくわけですが、セイバー召喚やランサーとの戦いをほぼすっぱりと省略したのは大英断でしょう。もうそのへんの共通ルート部分はFateファンなら何回も何十回も見ているところですからねえ。初見の人には優しくないかもしれませんが、そこで尺を取っちゃうのはもったいないという判断もあったことかと。


予想以上の迫力だったのがアクションシーンでした。もちろんZeroやUBWでもおなじみのufotableさんなので期待値は高めでしたが、期待以上のすごい画面。特にランサー対真アサシン戦はハイライトでしたね。これが劇場版の力ということでしょうか。「Heaven’s FeelもTVで見たかったなあ」などとぼんやり思ってもいたのですが、こんなクオリティを見せつけられては文句の言いようもありません。あとufotableさん関連で言うと、イリヤとセイバー、そして切嗣絡みのシーンでは、同じ本作がFate/Zeroの正統な後継作品であることを感じさせられたりもして、上手い演出でした。


さて、主人公である士郎と桜。士郎はあの災害のトラウマによって少しねじ曲がった性格になってしまっているわけですが、本ルートでの彼は一番人間味があるというか、比較的普通に見える気がします(まあそれでもバーサーカーに突っ込んでいったりするわけですが)。そしてそんな士郎に思いを寄せる桜ですが、普段の健気さの中に、時折見せる暗さと危うさがなんとも桜なわけです。士郎と慎二のケンカを止めるところの叫びが、普段の、「士郎の前で見せておきたい自分」から外れてしまった辛さが垣間見えて切ないといいますかねえ。境遇的にも人気的にも不憫な印象の彼女ですが、とにもかくにも本作メインヒロイン。全力で頑張ってもらいたいものです。


間桐臓硯と真アサシン勢の暗躍、「影」に飲み込まれていくランサーやセイバー。本ルートらしい不穏な空気を残しつつ、物語は次回へ。第2部は来年公開ということですが、来年のいつ頃なんですかね。第3部となるとさらに先になってしまうわけで、気の長い話です。まあ、冒頭に記したようにここまで13年待ったのですから、それに比べればどうということもないですか。まさか本作がここまで寿命の長いブランドになるとは、恐れ入りますよ。