「撫物語」

撫物語 (講談社BOX)

撫物語 (講談社BOX)


いやあ、本書に出会えて良かったなあ。そんな思いに至らせてくれる「物語」でありました。


とにもかくにも千石撫子です。物語シリーズをほぼアニメで追っていた身としては気になってました。なにせ彼女、なでこメドゥーサとかひたぎエンドとかで散々なことになってしまったではないですか。多くの人を傷つけて、自らも傷ついて。何より暦への恋心すら本当ではなかったようなまとめ方にされて。


これで終わりではあまりに可哀想すぎる、という後味だったのですが、ふとしたことでアフターストーリーである本書の存在を知り、急ぎ手に取ったわけなのですよ。


のっけから「キャラがブレブレ」とのメタ的自虐ネタが入りつつの撫子の一人称。考えてみれば自分はこれまで彼女の一人称を読んだことが無かったので、新鮮でした。やっぱり一人称だと、阿良々木君目線とかで見た時の第三者感とは近さが違って良いですね。そして、いつのまにやら彼女の友人になっている斧乃木余接。今作ではまさに頼れる名パートナーでありますが、考えてみればいきなり月火をなぎ倒したこともあって、余接の最初の印象は悪かったものです。その後出番が増えつつも基本はただの脇役くらいに思っていたのに、さらに続くこの存在感の上昇はなんとしたものでしょうか。西尾さん余接が好きなんでしょうねえ。


「次の完成原稿に、お前の顔写真を貼った上で、投稿することだ。そうすれば編集部がお前を美少女マンガ家として、祭り上げてくれることだろう」


本筋とは関係ないのに名ゼリフです。


……それはさておき。いろいろあって開き直ったらしく、堂々とマンガ家を目指すことにした撫子。これだけでも以前の撫子とは違うぞというところですが、式神のトラブルを通して過去のいろいろな自分達を向き合い、乗り越えていく、あるいは受け入れていくという展開は、感慨深いものがありました。


まだまだ彼女は未熟で、だめなところもたくさんあるのかもしれません。でも、誰に頼ることもなく自分の力と意思でピンチを乗り切り、そしてあらためて失恋を受け止めた。間違いなく、一歩大人になったお話なのだなと思わされました。


あと、やっぱり撫子の暦に対する想いは恋心だったんですよねえ。軽々しく「恋に恋してただけだ」なんて切り捨てられて良いものではない、と。このことがはっきりしただけでも本書の意義は深い、と思うものでありますよ。


いつの日かきっとひたぎにも、暦にも再会して謝ることができるのでしょう(他の物語でもうしてるのかもしれませんが)。心配ばかりだった彼女の未来でしたが、明るさが十分に見えてきました。良かった良かった。


これで本書を読む前は言いにくかった言葉がはっきり言えますよ。


「頑張れ、撫子」と。