劇場版「SHIROBAKO」

コロナが怖くて映画が観れるか! という今日このごろになってしまいました。学校が休校になったり、ライブが中止になったり、はたまたディズニーランドまで休園という非常事態ですが、そんな中で映画館は普通にやっている不思議。あまり自粛しすぎると、ウイルスではなく不況で死人が出てしまいそうなので、難しいところではありますね。


ともあれ、劇場版「SHIROBAKO」です。不急不要の外出は控える方針は一国民として承知しておりますが、SHIROBAKOの新作となればファンとして急用であり、必要というものでしょう。なにより、スタッフの方々が精魂込めて作ったアニメがウイルスに負けて不入りになってしまってはあまりにも悲しいというものです。応援の意味も込めて駆けつけましたよ。


以下、ネタバレ感想で。

 

あのTVシリーズから4年。武蔵野アニメーションは順風満帆……かと思いきや、そう甘くないのが世の中。冒頭の第三飛行少女隊の2期放送場面から、その暗さ、寂しさが痛烈に叩きつけられます。「タイマス事変」以後、すっかり低空飛行になったムサニと、さすがに少し元気のないあおいが悲しい。それにこの、第三飛行少女隊2期の中身が前作とは打って変わった露骨なエロ路線なのがまた痛々しいです。こういうの、出ている声優さんも辛いだろうなと、作中作なのに思ってしまうほど。


絵麻、しずか、美沙、みどりらも、食いっぱぐれまではしていないものの、うまくいったりいかなかったり。それぞれ悩みを抱えている中。しかし、そこに訪れるオリジナル劇場アニメ「空中強襲揚陸艦SIVA」の制作機会が、あおいを、そして関わる人々をまた前向きに変えていくのでした。


一度は距離が遠くなったTVシリーズのメンバーがだんだん集結してくるのは単純に嬉しく、頼もしいものでしたね。この流れで思い出したのはナデシコの劇場版だったりしますが、まあ、ある種の定番でもあるんでしょう。


感じたのは、TVシリーズと同様に、あるいはそれ以上に群像劇としての色が濃かったということです。多分、あおいたちメイン5人だけに焦点を当てれば、もっと個別に深い話を作れたんでしょう。でも、本作はそうはしませんでした。それはきっと、アニメ制作は集団作業であるということを反映しているのだと思います。


木下監督や矢野さんや太郎や平岡らももちろんですが、特に印象的な役割が与えられていたのは遠藤ですね。タイマス事変から自暴自棄になっていた彼を支え、叱咤し、励ます周囲の人達の温かさ。もちろん、最後にはそれに応えられる彼の強さと能力があってこそという面もありましょうが。


また、杉江さんの開いたアニメ教室ですね。ここも筋だけで言えば劇場版作成にあまり関係しなさそうなんですが、絵を描くこと、それが動くことの根本的な楽しさが示される重要シーンでした。今作では突然ミュージカル調になるところが2ヶ所ありますが、どちらもアニメの良さをあらためて観客に伝えたかったのだろうなと思います。まあ、一回目のあおいのはちと長すぎた感もありましたけどね。


劇場版の制作は順調に進むも、直前になって権利関係のトラブルが。このへんはTV版2クール目の繰り返しでもあるんですが、今回乗り込むのは監督ではなく、プロデューサーたるあおい(と宮井)。ここがまた成長を感じられるところです。TV版では、「おいおい、そんな大事なこと、契約はどうなっているんだ」というツッコミたくなるようなところでしたが、今回はその反省も踏まえて(?)、契約書も武器に戦っているのは好印象。でも、最後の最後はあおいの度胸で決めると。


いったん完成かと思いきやラストにもう一頑張りあって、今度こそ完成。「SHIROBAKO」のすごいところは、作中作を修正すると、本当に目に見えて良くなっているのが分かることです。これはきっと、「空中強襲揚陸艦SIVA」も高評価になることでしょう。


一つの作品が完成してまた明日へ。同じ日を漫然と繰り返すのではなく、自分のやりたいことに向かって、あがいて、動いていく。「私達の戦いは、いつまでもこれからだ!」。僕も少し力を分けてもらった気分です。


TVシリーズから5年経ってからの本作でしたが(劇場版ってやっぱり作るの大変なんでしょうね。本作では9ヶ月で作ってましたが)、そこにあるのは紛れもなくSHIROBAKOの世界でした。もっとも、TV版ではアニメ制作の豆知識要素も多かったですが、今回は具体的なアニメの制作場面は少なめ。その分人間ドラマが中心でしたね。欲を言えば、劇場版ならではの上映に向けてのうんちくみたいなものがあるとなお良かったかも。


総評としては、楽しみにした甲斐のある出来栄えでした。


「頑張れあおい、頑張れみんな」


素直にそう言いたくなる作品でしたね。できればまたいつか彼女たちの活躍も見たい気もしますが、ここまでがちょうど良いのかなあ……。制作はSIVAに負けず劣らず最後までギリギリだったようですが、スタッフの皆さんお疲れさまでした。