「ビアンカ・オーバーステップ」

ビアンカ・オーバーステップ(上) (星海社FICTIONS)

ビアンカ・オーバーステップ(上) (星海社FICTIONS)

ビアンカ・オーバーステップ(下) (星海社FICTIONS)

ビアンカ・オーバーステップ(下) (星海社FICTIONS)

あの筒井康隆氏がラノベに挑戦ということで、局所的に話題になったらしい「ビアンカ・オーバースタディ」。そのオーバースタディの二次創作にして正統続編にして新人賞受賞作がこちら、ビアンカ・オーバーステップとなります。僕は賞の界隈には詳しくありませんが、そもそも二次創作で新人賞取っちゃうって、前代未聞ではないでしょうか? 確かにオーバースタディ(以下「前作」)のあとがきで筒井さんは続編のタイトル(だけ)をにおわしていましたが、それに応えて書いてしまう作者も並大抵のものではありません。後書きによると26歳でこれを書いたとか。やっぱりすごい人はすごいもんですねえ。


で、そんな今作の不思議な出自はさておき、中身です。前作の主人公にしてヒロインであるところの北町ビアンカが突然姿を消してしまう。姉を心底愛する妹の北町ロッサは、ビアンカを救い出さんと未来へと跳ぶのでした!


一言で言えばかなり面白かったです。下巻なんかもう一気呵成に読んでしまったくらいには。まず主人公のロッサ。彼女はオーバースタディではただの可愛らしい妹キャラ的な雰囲気でしたが、本作では意志の強さと行動力と喜怒哀楽とがたっぷり付与された、なかなかはっちゃけた感じのキャラになっていましたね。もっとも、前作の時点で多少そういう要素は見え隠れしてましたし、違和感はありません。ただの「良い子」では終わらない主人公らしい魅力が加わりましたね。無論、姉、ビアンカに対する愛情と執着は前作据え置きとなっております。いや、こちらも前作以上かな?


また、今作は前作よりも相当SF色が強くなってました。タイムトラベルに異世界旅行つき。宇宙人、未来人、異世界人、超能力者バッチリ出てますね。前作からしてそうでしたが、ハルヒを意識しているところはあるんでしょう。イラストもいとうのいぢさんですし。


「最未来人」の魔の手に追われつつ姉を求めるロッサの辿り着く先とは? 読み応えある一作でした。フィクションでこれほどはまり込んだ本も久々かもです。


正直、僕は前作・オーバースタディはそれほど評価してません。筒井さんが書いたという話題性以外はとりわけ見るべきところはなく、まあ、つまらないとまでは言わないまでも、凡庸だったなと言うくらいです。ただ、そのオーバースタディが今作のような傑作を生む土壌になったとあらば、その功績は大きいと言えましょう。う〜む、さすが筒井さん、なのか。


その一方で、本作はどうしても「続編である」ということで敷居が高くなるのがもったいない作品でもあります。一応前作抜きでも読めなくはなさそうですが、普通はしないでしょう。ああもったいない。この内容ならオリジナルでもいけただろうにと思えてしかたないのですが、そこはきっと作者のモチベーションの根幹に関わる部分だったのでしょうねえ。


ともあれ、前作込みでも抜きでも読んで見る価値のある作品だと思いますよ。おすすめです。



で、こっからがネタバレ感想なのですが。


実はラストが理解しきれてません。ここがスッキリ頭に入れば掛け値なしに超傑作認定できたのですが、何回読み直しても分かったような分からないような? 「玉虫色の彗星」がビアンカ異世界での姿であって、彼女は危機のロッサを助けるために急いでいたってことなんでしょうか。でも、だったらその彗星をなんでビアンカが見てるんだろう。もしかしたらそのビアンカビアンカになったロッサだったんだろうか? でも彗星の話は異世界なんじゃなかったっけ、という感じでモニャモニャしております。


あと、スカルラットたちが可哀想過ぎてどうもね。彼らを殺し、世界を消滅させていくいくロッサについていけない感もありました。いくら創造主であってもねえ。ロッサには、多少性格がくだけても根底のところで「良い子」であってほしかったという読者の願望も込めての感想ではありますが。


だから本作で一番楽しかったのは、ロッサとアルトが未来世界観光しているところだと思うのです。短い間でしたが、ほのぼのでしたね。


作中でも言及されてましたが、紫色のクオリアを思い起こさせる物語でもありました。どちらも傑作ですが、なぜ主人公がそんなに根気と信念と記憶を持ち続けられるのかという点では紫色のクオリアのほうが説明できていたと思います。量子世界でたくさんいる自分たちが能力を拡張してくれるということで。ロッサは普通の人間だったはずなんですが、どこでこうなったのか。僕が読み取れてないだけかもですが、そこがちょっと不思議でしたね。