「天気の子」感想

公開に京アニの悲報が重なってしまったので、アニメを見る気が回復するまで待って行ってきました。


言わずとしれた新海監督の最新作なわけですが、事前の情報はできるだけ入れないようにして鑑賞。それだけに多少不安もありましたが、さすが新海作品ですね。物語の評価云々以前に、まず映像だけで心地よい。ほんの数分見ただけで、「この絵を見るだけでもチケット代の元は取れるな」と感じさせるクオリティがすごいです。これはなんなんですかね。単に精緻とか美麗とか言うだけでは表しきれない没入感。新海マジックというところでしょうか。花火すごかったなあ。


で、ここからストーリーについてネタバレありで。


予想していたよりも全体にシリアスで重めな話でしたね。まず主人公の帆高が家出少年で、当初は働く場所もなく邪険にされるという設定が重い。ヒロインの陽菜にしても母を亡くして弟と貧乏な二人暮らし。そして2人は終盤警察に追われることとなってしまう。追われると言っても重罪を犯したわけではないので「話せばわかる」というレベルにはなっています。が、それでも、やはり主人公たちが警察と敵対するというのは広く言えば社会と対決するということであり、その時点で、観客としてはどこか居心地の悪さを感じてしまいます。そして、最後に二人の決断は警察以上に大きなものと対峙してしまうことになる……。


事前情報は避けていましたが、「セカイ系」という単語は耳にしており、なるほど確かに、と納得するものがありました。ただ、ラストは多くのセカイ系作品とはまた異なる着地点ではありましたね。セカイ系というと未だに「イリヤの空、UFOの夏」を思い出してしまう自分ですが、あの作品では結局イリヤは救えない。でも、本作では帆高と陽菜は再会することができました。もちろん、そのために少なからぬ犠牲を払ってしまうことになるわけで、再会に感動してたら「その後3年雨が振り続けて東京が沈んだ」なんてことをさらりと突きつけられる。これは衝撃的でした。監督が、賛否両論かもと言われていたのもわかります。


ただそれでも、自分は良かったと思いました。何が正しいのかはなかなか難しいのですが、それでも二人が全力が進んだ先に笑顔でいられたのなら、それはハッピーエンドで祝福すべきことでしょう。


さて、ここからはあらためてキャラクターについて。帆高はなかなかに熱い行動力のある少年でした。多少無鉄砲なところもありますが、勢いで島を飛び出して勢いで働いて、陽菜を手伝ったり連れ戻そうとしたりと奮闘します。銃の発砲や警察からの逃走は見ている分にはハラハラしますが、パンフの監督インタビューにもあったように、ある面では狂っているほどの純情さがないと成り立たないキャラだったのだろうなあとも。


陽菜。特殊能力持ちヒロインということで、どういう性格なのかなと思いきや、可愛くてさっぱりしつつも変に特別にしすぎない良い塩梅のキャラになってたなあと。新海さん、ヒロインの描き方がどんどん上手くなっている感。天気にする力は生まれつきではなく後付で、本人もよく意味がわからずに得ていたということで、基本は普通の子でしたね。好きなのは微妙に下手なカラオケのシーン。しかし年下っぽく見える年上のはずがまさかの本当に年下だったとは。これは過去の新海作品を伏線にした絶妙なトリックですな。しかしそうして思い返すと、お姉さんっぽく振る舞う陽菜も良いですよね。


あとは須賀さん。帆高に手を差し伸べてくれた人であり、突き放した人でもあり、背を押してくれた人でもある。警察に囲まれて「まあまあ」みたいにとりなそうとしているところが印象的。常識的視点で見れば実際そうなりますよね。最後の「うぬぼれるな」というのも作品に大人視点からの救いをもたらしていて良いなあと。まあ、帆高はその救いをも乗り越えようと決意するわけですが。


おまけで瀧君と三葉。瀧くんはモブキャラかと思いきやずいぶんオーラがあったので、「あれ、これ瀧君か」と。ということは三葉も出てくるかなと思っていたので、宝飾店(?)の店員さんとしての出演は判別できました。二人が元気そうで何よりなのですが、その後東京が水没してしまうことを考えるとなんとも。あくまでおまけの出演でパラレルワールドと考えるという手もありますが、どうですかね。


ということで、総評としては「エンターテインメントを抑えつつも尖ったところを見せた新海監督の挑戦作」ということで、大変面白かったです。ただ、「君の名は。」に比べるとどうしても暗めのイメージが残るので、リピートは弱くなっちゃうかもですね。ま、それも想定のうちなんでしょうけど。