「やがて君になる 佐伯沙弥香について」

今期の一押しアニメと言えばゾンビランドサガ……も良いですが、個人的には「やがて君になる」なわけです。


いわゆる百合ものですが、自然体の百合といいますか、耽美とか二人だけの世界とか魔法少女だとかきらら系とかそういう感じではなく(そういうのはそういうので好きですが)、現実的な日常や学校生活の延長で恋が描かれているテイストが好きだなあと。


特に、燈子のアクションに対して淡々としている侑が良いです。まあここ最近はだいぶん燈子に惹かれていて、話の流れ的に告白したりするんだろうなあ、と予想はつくのですが、いやもう、このまま最後まで淡々モードでも良いんじゃない、と言いたくなってしまいますね。


さて、本題に遅くなりましたが、そこで本書です。燈子に密かに想いを寄せる親友・佐伯沙弥香のスピンオフ前日譚。本作ファンなら必読と言って良いくらいの良いサイドストーリーでした。本編だと基本侑が主役なので、沙弥香は決して悪役ではないにしても、どうしても思い入れが薄めになってしまいます。しかし、本書を読めば一気に彼女のことが好きになること間違いなし! ……と思いましたが、人によっては「好きになる」まではいかないかもしれない。でも、沙弥香の背景を知ることで物語に深みが増すことでしょう。


それなり以上のお嬢様として育った沙弥香。ちゃんと両親や祖父母といった家族が描かれるのは本作の良いところですが、外伝の本書でもそこは受け継がれてますね。両親の存在感は薄いですが、雰囲気の悪い家庭で育ったとかそういうことはなくてほっとします。


本書のメイン部分は、中学生時代の先輩との恋愛模様で、結果的には先輩の身勝手すぎる行動に沙弥香は深く傷つけられてしまったわけですが、先輩も困った人ではあっても決して悪人という訳でもなかったろうし、二人で楽しく過ごした時間も確かにあったわけで、やりきれないところですねえ。


あと、序盤の小学5年生のときに出会った女の子はその後どうなったのか。それこそ名前も出てこないのは、沙弥香にとって過去の薄れた思い出でしかないということなんでしょうが、あんな出来事のあとで沙弥香がスイミングスクールを止めたのでは、当人も傷ついて水泳を続けられなくなってしまったのではないかと心配になってしまいますね。二人が偶然再開することはあるのか。多分ないんでしょうが、想像していしまいます。


そして高校の入学式に出会った燈子への恋。もし沙弥香が主人公ならば、今度こそ成就しても良さそうなものですが、道のりは険しそうです。頑張れ沙弥香。


ところで、侑と沙弥香の、別に嫌い合っているわけではないけれど微妙に距離のある関係というのも、また本作の魅力の一つでありますね。侑が沙弥香をファストフード店に誘った時の勇気ぶりは称賛に値するってものですよ。もし燈子が間に挟まっていなかったら二人は仲良くなれたのか……と考えてみますが、う〜ん……結局相性が悪そうな気もする。さてはて、二人の関係の行く末も気になります。原作やアニメにキリがついたら、本書の続編も期待したいところですね。