「NHKスペシャル 生活保護3兆円の衝撃」

NHKスペシャル 生活保護3兆円の衝撃

NHKスペシャル 生活保護3兆円の衝撃

関東地方も梅雨入りだそうです。雨の休日は読書というのも乙なもの。ということで、本日の一冊はこちら。内容的には乙と言うよりはちょっと重めですが。


先般、お笑い芸人の河本準一さんの母親が生活保護を受給していたということでちょっとした話題になりました。僕としてはさほど興味もなかったのですが、それでも、それなりに稼いでいるであろう人の家族が、それも縁が切れているわけでもない母親が生活保護を受給できるというのは、たしかにちょっと驚きではありました。


さて、本書はNHK取材班がこの生活保護の現状を追った力作ルポです。TVでも放映されたのでしょうが、そちらは未見。しかし、NHKさんはさすがに良い仕事しますね。


まず、生活保護の受給者は現在約200万人とのこと。人口の2%未満と見ればさほどでもないという言い方もできましょうが、やはり200万という数字で見ると、思ったよりも大きいという感覚です。そして、本書のタイトルにもあるようにその総額は3兆円を越えるとか。受給者数は95年の時点で100万人を割っていたものの、近年急増。特に、リーマン・ショック後に受給要件が緩和されたのが大きな転機となったようです。


受給者の多くを占めるのは、高齢や病気で働けないという人。これは昔から変わりません。しかし、全体の17%に当たるのは「働けるのに働かない」と見られる層。この層が現在急拡大しているという点を、本書の取材班は追っていきます。


なかでは、受給者に食い込んで保護費をピンはねする貧困ビジネスの手口も紹介されます。税金から支出された福祉のためのお金が裏社会の資金源とされるのには憤懣やるかたないものがありますが、仮にそうした輩と関わらなかったとしても、やはり生活保護から抜け出すのは難しいとのこと。本来一時的な助けであって、トランポリンのように受給者を自立へと向かわせねばならない生活保護が、逆に泥沼のように這い出せない制度となっているという問題点を、本書は指摘します。


それはたとえば、収入があるとその分保護費が減ってしまうことであったり、お金を渡すだけで職業訓練などの自立をうながす体制が不十分であることだったりしますが、そもそも、働かないでもお金がもらえるという根本的な仕組みそのものに、モラルハザードの誘因があることも否定出来ないでしょう。


必要な人には保護がいくように、一方、働ける人には生活保護に浸からず、早く自立できるように。その理想に向けて本書でもいくつかの改善案は出されていますが、一朝一夕で解決できる問題でもないのでしょうね。ただ、従来はあまり目を向けられて来なかったこの問題について、国民全体が議論すべき時がやってきたのではないか、と強く思わされる一冊でした。重要な制度なのですから、官僚の通知一片で大きく運用が変わってしまうようでは情けない。


冒頭の話題も、単なる河本さん叩きに終わるのではなく、もっと大きな議論の礎となるのならば、有意義なものとなるであろう、と思うのですけどね。