アカイイト日記 その6 総評

・シナリオ
評判どおりの良質ビジュアルノベルでした。一見ホラー系耽美物のようなイメージがありましたが、実際のところそういった要素は控えめに、思ったよりも落ち着いた物語でしたね。


一番の評価点と思ったのが、マルチシナリオノベルゲームの醍醐味である「繰り返しプレイによる物語の重層化」がしっかりと織り込まれていたことです。マルチシナリオといっても、ただ個別ヒロインのルートに入るだけというゲームも結構ありますが(それが悪いというわけではありませんが)、このアカイイトで感じた奥行きは「kanon」や「月姫」といった名作に近いものがありました。バッドエンド、ノーマルエンドにも伏線が張ってあったりしてうならされましたね。


作中時間がたったの4日間というのは微妙なところで、特に初回プレイ時はあっという間に桂と烏月が親密になるのでついていけないほどでした。ただこれも、複数プレイ前提の仕様と考えると巧妙です。主人公にとっては初めての事件、初めて会うキャラでも、プレイヤーにとっては既出でなじみぶかいわけです。だから次第にずっと会っているかのような感覚に陥り、違和感が無くなると。そこまで考えての作りだとしたら、やっぱり良く練られていますね。



・キャラクター
「主人公が『少女』」とパッケージにもあるように、物語が羽藤桂の目線で進むというのが本作の特徴の一つでしょう。なぜあえて少女にしたのかと色々考えさせられます。まず思いつくのが、桂が基本的に受動的な主人公であるということ。あくまで贄の血を引く家系であるだけで、それ以上の力はありません。この手の作品では割と珍しい「守ってもらう」主人公です。おまけに供血しなければなりません。主人公を男性にするといまひとつ弱弱しい上に、血を吸われるところが絵的に萌えないと判断されたのではないでしょうか。


また、主人公を女性にすることで恋愛要素を押さえた物語を構築できるというのもあったことでしょう。百合だ百合だといわれますが、作中での桂のヒロインに対する好意は一応常識的な範囲に収まっており、恋とは言いがたいものがあります。同時に男性キャラを最小限にしたことで、男性プレイヤーと桂との性別差を意識させなくしていると。上手い作りですね。逆に言うとこれ、ヒロインの性別を反転させればそのまま女性向けゲームとしても成功しそうです(アマゾンのレビュー欄でも結構女性多いですね)。


なお各ヒロインについてですが、桂に対して感情移入がいってしまったためか、さほど印象に残らなかったのは惜しかったです。あえて言うなら葛ちゃん良いです。ユメイさんも萌えそうなキャラなんですが、桂に対して献身的なばかりで自己主張が見えなかったのがちょっと残念。



・音楽
オープニング良し、エンディング良し、ラストバトル良し。……あとはさほど印象無し、といったところでしょうか。水準は高い方だと思います。オープニングは何度も聞き返してしまいますが、音楽鑑賞モードが無いというのが悲しい仕様。フルバージョンを聞くにはゲーム本編よりも高価なサウンドトラックを買う必要があり、躊躇してしまうところではあります。



・システム
全体的にそつなくまとまってはいますが、細かな不満もいくつか。まず動作が少々重いこと。スキップにも時間がかかります。このへんは「ひぐらし祭」と比較するとはっきりしてますね。ただ一ルートあたりの所要が短いので致命的ではありません。あとセーブ数が20というのはちょっと少ないかな。分岐図は面白いですが、見るだけではなくどうせなら任意の分岐個所から始められるくらいの便利さは欲しかったです。用語集はうんちくが色々と身について面白かったですね。


吸血ゲージは……まあ無いよりは緊迫感がでて良いのではないでしょうか(汗)。



・総評
物語のインパクトという点では弱いと思います。すごく感動するとかずっと記憶に残るとかそういう感じではないでしょう。でも良く出来た面白い作品であることも間違いないと思いました。上でも書きましたが、ルート変化による練りこまれたシナリオは見物でした。少なくとも2000円というのは格安でしょう。


同スタッフによる新作「アオイシロ」や、なぜか今になって月刊コミックラッシュに掲載されるらしい漫画版「アカイイト -花影抄-」にも期待です。