「ベーシック・インカム入門」

ベーシック・インカム入門 (光文社新書)

ベーシック・インカム入門 (光文社新書)

以前、ベーシック・インカムについて触れたことがありましたが、もうちょっと勉強したいと思ったので本書を読んでみました。


国民全てに、生活に必要なだけの所得を付与するというベーシック・インカム制度。突飛なものと思われがちですが、本書は、哲学者の発想としては数百年前から、具体的な要求としても、数十年前からその流れがあることを紹介します。また、もともと福祉運動の一環としての色合いが濃かったことも事実ながら、自由主義的な経済学者の中にも、ベーシック・インカム(あるいは、その変形としての負の所得税構想)を支持する論者がいることにも注意を向けます。


そうしたベーシック・インカムに対する歴史的な叙述については興味深く、入門というだけあって勉強になりました。また、現状の福祉制度では及ばないベーシック・インカムのメリットについてもまとめられています。


ただ、多くの人がベーシック・インカムについて抱く疑問であろう、「みんなに給付したら労働意欲が落ちてしまうんじゃないの?」「そもそも財源がないんじゃないの?」という2大論点については、十分な説明がされているようには思えませんでした。


労働意欲については「必ずしも減少するとはいえない」程度の希望的観測。肝心の財源面についてはさらに乱暴で、

奇妙なのは、お金がかかる話すべてに財源をどうするかという質問がされるわけではないことである。
ベーシック・インカムの話しをするとしばしば出てくるのは「財源はどうする?」という質問である。奇妙なのは、お金がかかる話すべてに財源をどうするのかという質問がされるわけではないことである。国会の会期が延長されても、あるいは国会を解散して総選挙をやっても、核武装をしようと思っても、銀行に公的資金を投入するにも、年金記録を照合するにも、すべてお金がかかる。だからといってこうしたケースでは「財源はどうする!」と詰め寄られるということまずない。
(中略)
それが必要だという合意があれば、他の予算を削ったり、増税したり起債したりして、それに見合う財源を調達すれば良いだけの話である。

という調子。


……いやいやいや。総選挙にかかるお金とベーシック・インカムにかかるお金とでは、どう考えても桁がいくつも違うでしょう。そもそも、ベーシック・インカム自体がまさにお金を給付する制度そのものなのですから、財源を問われるのは当たり前です。それをこんな適当な論法でお茶を濁されても……。この点はかなりがっかりでした。


結局、疑問点が解消されなかったので、ベーシック・インカムに対する現状での評価は否定的です。理念は分からないでもないのですが、貧困をなくすつもりが、かえってみんなで貧困になりそうな気がしてしょうがないところ。改革心に欠けること甚だしいですが、どこか他の国が本格的に実施して、それでうまくいってそうだったら真似するってことで良いんじゃないですかね。