「聲の形」感想

先日「君の名は。」を観た時点で次は今作と決めていたのですが、ちょうど今月はファーストデイ(映画の日)が土曜日。嬉しい割引で行ってまいりました。今年はファーストデイが土日になるのが5月と10月しか無いんですよねえ。あと、1000円かと思っていたらいつの間にか1100円になっていた。まあ良いですが。


さて、そして「聲の形」です。原作はほとんど未読。「耳の聞こえない女の子がいて、主人公がいじめちゃったりするんでしょ」くらいの認識でしたが、まあ京アニですし、山田尚子さん監督で吉田玲子さん脚本なら鉄板だろうなあ、と思っていたわけですが、いやあ、予想以上に力のこもった作品でした。


単純に「面白かった」という言葉で表現するのは何か違うような気がしますね。もちろん、面白くもあったのですが、どちらかと言うとずしりと重く心に乗ってくるような作品でした。


まず序盤、主人公の将也たちが硝子をいじめる描写がさっそく辛い。そういう作風だとわかっていても、見ていて怒りを感ぜざるを得ません。それに積極的あるいは消極的にも同調する女子たちの嫌らしさも怖い。先生も耳の聞こえない生徒への配慮がなさ気ですし。


と思ったら、そのいじめが発覚したことで今度は将也がいじめられる側になり、ついには自責の念もあって自殺まで図ることに。ああ、辛い辛い。将也の閉ざした心を示すように周囲のキャラクターたちの顔にはバッテンマークが貼られ、とにかく映画の前半はほとんど息を抜く場面がなく、苦しくなってきます。永束君の存在に、将也だけでなく、どれだけ観客も救われたことか。


そして、高校生になった将也と硝子の再会から、彼を含めて、かつて彼女のいじめに加担していた植野や川井。硝子の妹である結弦たちの新たな人間ドラマが描かれていくわけですが、ここも一筋縄ではいかない。最初から硝子と仲が良かった佐原はともかく、植野や川井は悪役ポジション気味ではあるんですが、監督はそんな彼女たちも含めてみんな単純な悪人としては描き出しません。特に植野はむしろ積極的に硝子とコミュニケーションを取ろうとさえする。まあ、それで結局ウマが合わないんですが、単に「耳が聞こえないからいじめる」という話で終わらせず、善悪でははかれない性格の不一致という部分が見えてくる。


この植野直花、実はキャラの印象としては、メインヒロインの硝子よりも強かったかもしれません。最初は出るたびに嫌な感じでしたし、最後まで好きなキャラというわけではなかったのですが、それでもインパクトが残る。観覧車のシーンは強烈でしたね。


一方、自分が積極的に加担した自覚のある植野に対し、無自覚な川井は相当いやらしくも見えますが、パンフレットによるとそれでも彼女は「本当に良い子」ということで、なかなか分かりづらいキャラだったりもします。声優の潘めぐみさんも悩んだようですが、自分の理解できる範囲で善意ということでしょうか。でもこういうキャラがいると話が深まりますね。


結弦が途中から大活躍でしたが、彼女は分かりやすいので置いといて、硝子です。実はこの硝子も結構つかみにくい。筆談だから、というのもあるかもしれませんが、何を考えているのか見えにくいんですね。基本的に良い子なのはわかりますし、自己防衛で愛想笑いが癖になっているところもわかるんですが、将也目線のせいか、良い子すぎるようにも見えます。あんまり暗いところ表には見せないんですよね。耳が悪化して落ち込んでいるシーンくらいでしょうか。そこも表情は映りませんでしたが。


で、お祭りを楽しんでいるかと思いきや、急にマンションから飛び降りを図る落差。将也と同じように、「祭りの日が過ぎたら死のう」的な覚悟だったのでしょうか……。そもそも、あれだけ自分をいじめた人と平然と付き合っていられるというのも不思議な点で、強いのか、鈍感なのか。ん〜、もうちょっと考えてみたいキャラではあります。可愛いのは間違いないんですけどね。それと、早見さんの演技が素晴らしかったです。声優さんはすごいなあ。


映画のテーマとしては、人は変わることができるということ、そして、顔を上げて他の人のことをしっかりと見つめ、声を聞こうという感じですかね。聴覚障害についてはメインではなく、あくまでお話の一要素ということで、良い塩梅だったかと思います。


感情移入できるキャラがいなかったのが難点で、それほど「感動」ということはなかったのですが、間違いなく傑作アニメ映画と言えましょう。「君の名は。」につづいてこんな良作を観られるとは、ありがたくもあり、「やっぱりアニメは日本の国民的娯楽であり文化なのだなあ」と感慨深くもあり。さすがに「君の名は。」のような爆発的ヒットとはいかなくても、十分多くの人に見てもらいたいものです。すでに興行収入10億円を超えたとのことなので、心配なさそうですけどね。