屍鬼 第20話「第腐堕悼話」

次第に勢いを増す屍鬼狩り。一番目立っていたのは大川父でしたが、地味ながらも僕が気にかかったのは、敏夫の友人である喫茶店マスターでした。凄惨な場面に立ち会うことを恐れ、別の場所に移動したり、あるいは目を背けていたりした彼。一見臆病にも見えます。しかし、いくら理屈では屍鬼だと分かっていても、かつての知り合いの変わらぬ姿を見て「退治」するのは、普通はまず出来ない。躊躇するもののはず。彼の反応こそが自然だったのではないでしょうか。


息子をも手にかけた大川父は確かに勇壮で頼もしかったですが、やはりどこか壊れてしまっていたのだと思います。血に酔うとでも言うのでしょうか。だからこそ、おそらく操られているだけだった村人を殺してしまったのでしょう。屍鬼を排除するために多少の狂騒は必要だったのでしょうが、それが殺人にまで至ってしまったのでは大問題です。人の勇気と暴走を、同時に感じさせられるエピソードでした。


そして、迫り来る暴力におびえる沙子。人間の立場からすると、それはやっぱり勝手だろうと思わなくも無いのですが、本人も分かって言っている以上、何も言えません。だから静信も沈黙していたのだと思います。


人間と屍鬼。外見も意識も似ているのに非なる者の悲しい争い。FORTUNE ARTERIALもこの辺まで突きつめてくれるともっと面白いんだけどな、などと思いつつ、クライマックスに注目です。