eden*感想まとめページ

eden*

eden*

日記に書いたminoriさんのeden*に関する感想特設ページです。一本道なので特設といってもほとんど総評だけなんですが、日記時よりもキャラ評などに加筆修正してあります。


当然ネタバレですのでご注意ください。




読み終わりました。


美麗にして静謐。優しく、そしてどこまでも切ない物語。


余韻が強く胸に沁みます。



○シナリオ
すべては「地球で最後の恋物語」のために。


デモムービーの段階ですでに、彼女が余命いくばくもないことは明らかでした。ゲームスタートしてすぐに、二人きりで過ごす亮とシオンの姿がありました。それから舞台は研究所に移りましたが、結局は、最初に示されたものがすべてであったと言えましょう。


奇跡やファンタジーによる救済は無く、やがてシオンは衰え、二人に別れが訪れる。たったそれだけの、けれども、宝石のように輝いた日々の光景。


星が滅びるとか、宇宙船による脱出といった大仰な設定も、二人を描くための背景に過ぎなかったのでしょうね。物語には大きな展開も、意外性のラストもありません。でも、それでも十分でした。少なくとも、描きたかったものは伝わってきましたから。


二人の願いは成就し、シオンは微笑みを残して死んでいくことが出来ました。ハッピーエンドだと思いたい。でも、どうしても悲しさばかりが胸のうちに残ります。どうか、安らかな眠りを……。



○キャラクター
主にシオン語り。他数名。


・シオン
彼女に「萌え」という言葉は似合わない。そんな気がします。


幼い外見と、見た目に反した聡明さ。凛としていながらもバランスの取れた人格。最初から最後まで、シオンは際立った存在感でした。そんな彼女に僕が抱くのは、萌えというよりも敬意に近いです。


シオンは傍若無人な天才キャラではなく、自分の立場を理解していました。彼女をめぐって、裏では血なまぐさい闘争が続き、多くの人に恨まれているとしても、彼女は自分の信じた道を(たとえそれが押し付けられたものであっても)、歩む強さがありました。


シオンは(少なくとも亮といる時の彼女は)自分の心に嘘をつかず、率直でした。自身の本心をつかみきれない時はあっても、嘘や見栄をきらい、自分の体調の悪化についてもごまかすようなことはありませんでした。


シオンは、初めて亮と会ったときから死を覚悟し、受け入れていました。そしてそれは最期まで貫かれました。死ぬ間際に彼女は嘆きますが、それは死に恐怖したのでは無く、亮を想う優しさと、彼と離れる悲しみから来たものでした。彼女の覚悟は安易な強がりでも諦めでもなくて、本物だったのだと思います。


そんなシオンを、僕は尊敬します。


見た目はロリキャラ、でも内面は大人びてるというと、Fateイリヤなんかも思い浮かびますが(銀髪も似てますし)、シオンの場合は何しろ100歳以上ですからね。まあ魔女だの吸血鬼だのだとそれ以上の年齢のヒロインもありでしょうが、シオンはフェリクスとはいえ人と同じように年を重ねてきているわけで、ちょっと性質が違うでしょう。


純真でありつつも、経験をつみ老成している、不思議な魅力でした。真夜の若さをうらやむ場面はさりげなく印象に残ります。ところでこの場合、亮が少女趣味なのでしょうか? それともシオンが年下好みなんでしょうか? どちらも正しいということになるのかな……。



・ラヴィ
ゲーム開始直後の彼女の笑顔は、右も左も分からないプレイヤーを勇気づけてくれました。しかし、前半でお別れ、エンディングまで会えなくなってしまうとは思いませんでしたよ。二人の過去話エピソードも外伝としてみたい気もしますね。


彼女は結局、最初から最後までシオンに会えなかったわけで、プレイヤーの立場からするともったいないなと感じてしまいます。護衛ですから、一応写真くらいは持っていたのかもしれませんが……(その点で言うと、亮がシオンの外見を知らなかったのは不自然ですが、シナリオ演出的にはやむを得ないでしょう)。



・エリカ
最初に天然ボケっぽいメイドさんが出てきたときには、ああ、今作の世界観は大丈夫だろうかと大いに不安になってしまいましたが、進めてみると、なかなかしっかりした大人でした。彼女もフェリクスというシーンではきっちり驚き。公式サイトのキャラ紹介見るのも、最小限にしておいた甲斐がありました。


彼女もラヴィ同様、後半には姿を見せなくなってしまう、それも、ラヴィと違って亡くなってしまう役回りですが、「実は生きているのではないか」と少し匂わせるシーンがありました。だから僕は「これで彼女が生きている展開だったら甘いなあ」などと思い、彼女の姿が現れたときは「やっぱり」と感じました。……でも、それは亮の夢でした。彼女は確かに死んでいたのです。


考えてみれば、甘かったのは僕のほうでした。いつしか、安易なキャラの復活に慣れてしまっていたんですね……。反省。


彼女も、シオンと同様長い時を生き、人生に納得して逝けたのだと、そう思いたいです。



・真夜
OPにほんのちょびっとしか出られなかった不遇な彼女ですが、その元気さと明るさは物語後半の清涼剤でした。また、彼女がいたおかげでシオンと亮がより近づいたという効能もありました。ただ、それより何よりも、「シオンのことを未来に伝える」 それこそが彼女の一番の役割だったのだと思います。


もし真夜が来なかったら、シオンと亮は二人ひっそりと地球で死んでいくだけだったかもしれません。シオンは「人類を救った」ということにはなっても、その実相を知る人は皆無ということになってしまったでしょう。それではあまりにも寂しい。シオンも亮も、名誉は欲していなかったかもしれませんが、少なくともプレイヤーは納得いかないのです。だから、彼女は未来へ希望をつなぐ架け橋でありました。ジャーナリストとしての成功を祈ります。祈らなくても、彼女なら大丈夫でしょうけどね。



○音楽
おなじみ天門さんです。僕はminori作品ははるのあしおと以来なのですが、はるのあしおとと同様に、メロディーとして印象に残るというよりは、BGMとして脇役に徹していますね。澄んだピアノ曲が、作品全体の雰囲気を生み出しています。


主題歌「little explorer」は前作「ef」の歌に似てるかな。悪くはないのですが、作品の雰囲気とは微妙にずれてる感もあります。あと、EDにしっとりとした歌がもう一曲あると、なお破壊力が増したのではないかと。


○デモムービー
おおむね1年半ごとのお楽しみ。minoriさんのデモムービーです(新海さんは関わってらっしゃらないんようで。それでもむしろ、見事なコピー具合と評せましょうが)のデモムービー。最初にキャラの語りから入ってそこから歌とアニメという構成は前作ef同様(もちろん製品版では語りは無いですが)。歌もおなじみ原田ひとみさんですね。


アニメも曲調も正直言うとちょっと既視感があるんですが、少しずつ進化しているというイメージですかね。ただ、過去にあったような爽快感はやや欠けているかなと。その点でいうと、はるのあしおとの、ゆづきが空を飛ぶところやメロディにあわせて傘を開くところは良かったなあと振り返ったりします。


最初見たときは、なんかシオンばっかりで他のヒロインが目立たないなあ、と思ったのですが、ゲームプレイ後は、これしかないかと納得。ただ、ラヴィの刀は本編ではさっぱり出てこないわけで、ムービーで描かれるのはミスリードではないかと思っちゃいました。



○演出・構成・機能
絵の綺麗さと見せ方は本当に上手い。一度浸ると、他作品の立ち絵が野暮ったく見えてしまうほどです。また、僕がプレイした初めての16:9ノベル作品でもありました。我が家のPCディスプレイは16:10ですが、ちゃんと1024×768対応のフルスクリーン化が用意されてたのは大変ありがたいところ。額縁表示になりましたが、むしろこのくらいの横幅の方が文字が読みやすいということが分かりました。仮にディスプレイが16:9だったとしても、全画面使うと目を動かすのが大変だったことでしょう。


構成の特徴としてあげられるのは、選択肢無しの一本道ということでしょう。途中までは、「最初はシオンルートで、ラヴィやエリカのルートがあるのかな」と思っておりましたが、7割がた進めたところでようやく悟りました。「ああ、これは他の話を入れる余地は無いな」と。それぞれ魅力的なキャラなので残念な部分もありましたが、脇にそれると本作は変質してしまったと思います。


構成と言えば、本作は全年齢対象作品でもありました。ノベルにさほどエロを求めてないので、値段が安く、声優さん起用の幅も広がったのは好印象。物語的にも良かったと思います。PLUS+MOSAICは……シオンのシーンだけ気になりますが、他のキャラについては蛇足になることが予想されるので消極的。



○総評
今作より感動した作品、燃えた作品は他にあります。しかし、ここまで「美しい」と思わせる作品は初めてでした。あえて近いものをあげると「planetarian(Key)」になりますが、クオリティは今作のほうがずっと上です。その「綺麗過ぎ」を批判することは可能かもしれませんが、僕はとても良かったと思います。


非18禁ですし、短いですし、ヒロインも(ロリとかメイドとか見た目はともかく)内面的にはそれほど媚びたところが無いと思いますので、幅広い層にプレイしてもらいたい一作でありました。