「ハクソー・リッジ」

http://hacksawridge.jp/


沖縄戦を舞台にした力作らしいからそのうち観にいこうかな」と思っていたら危うく上映期間が終了しそうなところでした。危ない危ない。やってる本数も少ないし、そこまで大人気というわけでもないんですかね。戦場の描写がハードらしいという話も聞いたのでちょっと躊躇しましたが、迷ったらゴーということで行ってきましたが、それが正解でした。以下ネタバレ込みの感想です。


デズモンド・ドスという異色の衛生兵の活躍を描いた物語。デズモンドは信仰上の理由から人は殺せない、それどころか銃に触れることすらしないという信念の持ち主で、当然のごとく軍では異端視されます。半ば強制的に除隊を迫られ、軍法会議にもかけられることにもなるデズモンドでした。


ここで面白いというか、普通の映画と違うところは、観客の方からしても「そりゃそうでしょ」と思ってしまうところで、一般常識的に見れば、理不尽なのは軍よりもデズモンドなんですよね。いや、銃に触れないなら何も軍に志願しないでも本土の工場で働いていれば良いじゃないかと。しかし、デズモンドは信念を曲げずに自分のあり方を貫こうとします。


そして迎えた沖縄戦ハクソー・リッジというのは沖縄にある高地のことらしいですが、日本軍必死の反撃の前に、米軍は苦戦を強いられます。その、死と隣り合わせの轟音と恐怖の中で、デズモンドは一人、もう一人と負傷した戦友たちを救っていきます。かつて彼の態度に怒り、また呆れた人々も、デズモンドの英雄的な働きを認め、讃えるのでした。


いやあ、これが実話だというからすごい話ではありますが、とにかくデズモンドの個性的な行動をどう受け止めるか。そこが一つのポイントですかね。いや、もちろん彼の成し遂げたことは立派ですし、何しろこの映画自体がデズモンドを肯定しています。僕も別にそれを否定するつもりはないのですが、ただ、彼が讃えられたのは結果を出したからだよなあ、とも思えるわけで。それがなければ最後までただの変わり者で終わったかもしれません。


信念は大事というだけではなく、言うからには結果を出さねばならないということでしょうかねえ。いやそれとも、たとえ周囲から認められなくても、結果が出なくても、自らの心に沿って行動することこそが大事という見方もできましょうか。ふむぅ……。


メル・ギブソン監督については詳しく知りませんが、逆に言えば、そんな僕でも名前程度は知っていました。キリスト教の信仰心がテーマに強く現れる監督だとか。今作も、デズモンドの信念と行動自体が信仰心によるものでしたから、ピッタリの題材とも言えます。舞台こそ戦争ですが、その上で描かれたのは信仰の生み出す強さとある種の奇跡でした。デズモンドが頭から水をかぶるシーンとか、天に上るかのようなラストシーンとか、あきらかに聖書からのモチーフですしね(一瞬、ラストはデズモンド死んでしまったのかと思いましたよ)。


僕は強い信仰心というのはどうにもピンときませんが、それが時に普通の人間を超えた強さを生み出すというのは間違いないのでしょう。


さて、物語以外の要素について触れると、たしかに戦場の描写は大迫力でした。ひっきりなしの銃声、爆発音、そしてあっという間に積み重ねられる死。そこには理屈も何も通らない圧倒的な暴力があり、だからこそ戦争は恐ろしい悪だと感じさせられます。


そして、「敵」となった日本兵ですが、どうしても米軍視点ではやられ役になってしまうのは致し方のないところで、日本人観客としては少々居心地が悪いところ。ただ、日本兵を恐ろしい存在としては扱っていても、悪であるとは描いていません。戦争なので、ただそこに必死な敵がいる。それ以上でもそれ以下でもない描写と感じました。まあ、本作はデズモンドが仲間を救う話であり、バッタバッタと日本兵をやっつける話ではありませんのでね。あえて言えば、日本兵の会話の調子に多少不自然さを感じないでもなかったですが、これも些細なレベルではありましょう。


それにしても、この前見た「沈黙」と同じくアンドリュー・ガーフィールドさんが主役とは。どちらも強い信仰心を抱え、それゆえに周囲との摩擦に苦しむという役柄。奇遇なのかなんなのか。本人に2作の比較なんかを聞いたら面白そうだなと思います。