「沈黙 -サイレンス-」

原作はおなじみ遠藤周作の名作小説。おなじみと言ったところで、多分昔2回くらい読んだだけで細かい内容は全然覚えてませんでしたが。それがハリウッドで映画化とは、そんな世界的にも評価の高い作品とはつゆ知らず、失礼しました。


さて、作品の方はなんとも硬派と言いますか、シリアスといいますか、とにかく「面白い」などという言葉で軽々しく評せないような重いものとなっておりました。舞台は17世紀だけに、当時の社会風俗をしっかり描写するのも大変だったことでしょうが、重厚な画作りといいますかね。僕は映画の技法は分かりませんが、どっしり安定感のある作品でありました。ロケが台湾ということで、日本の自然と違いが目立っちゃうんじゃないかと心配していたんですが、特にはそういうこともなかったですね。まあ、長崎が舞台なので台湾と近いということも言えなくもない?


物語の方は有名なのでさっくりですが、禁教政策を取る江戸初期の日本、長崎にイエズス会神父のロドリゴが訪れ、そこでの「キリシタン」弾圧、そして苦悩に答えずただ沈黙する神に対しての疑問といったテーマが描かれます。日本が当時キリスト教を禁じた理由も理解できる反面、そこまで酷い扱いをするのかと、実行された拷問迫害の数々は目を背けたくなるような厳しさ。でもこれが当時の現実だったのでしょうねえ……。


一体、その中で神父が、信者たちが命をかけて信じたものとは何だったのか。守るべきものは命か、信仰か。正直、信仰から程遠い現代の僕としては、彼らは結局不毛な幻想のために死んだだけなのではないかというシニカルな感想も出てきます。ただ、信仰が仮に幻想だったとしても、そこから生まれる力は命さえもかけさせるものだとも伝わるのです。


原作が日本人作家ということもありましょうが、ことさらに日本人が悪者というわけではありません。かと言って、無条件に善玉というわけでもありません。そういった善悪二分論的なところから離れた、どちらにも感情移入できるような、出来ないような、そんな中途半端な居心地が印象的でもありました。透徹した視点というか。3時間近い大作ですが、全編固唾を呑んで見守った印象です。明るい娯楽作品では決してありませんが、荘厳な建築物を観たようで、映画のもつ力とはこういうものかと感じさせられました。スコセッシ監督は名前を知りませんでしたが、「アビエイター」の監督と聞くと少し納得です。亡き遠藤先生も、この出来栄えなら納得されたんではないでしょうか。


……あ、でも登場人物がみんな英語を喋るのはさすがに無理があったかな……。第一ロドリゴポルトガル人だし。