「埋葬」

埋葬 (想像力の文学)

埋葬 (想像力の文学)


たまには毛色の変わった小説に挑戦しようと、何やらすごいらしいとネットで評価を聞きつけた本作に挑戦してみたわけです。いや確かに、なかなか印象的な一作でした。


何がすごいって、まずはその文章。出てくる人物がみんなどこか狂っているような、少しづつずれた感性と行動と、ドストエフスキーのキャラもかくやという長々とした会話文(いや、ドストエフスキーはさらに長かったか……)がヌルヌルと連なり、良く言えば幻想的な、悪く言えばとりとめのつかない、見通しも悪い雰囲気を生み出しております。しかし、それでいて読みにくいかというとそれほどでもなく、これは個人差もあるかもしれませんが、少なくとも自分はなんとなく変なリズムに乗せられるかのように読み進めてしまったのでした。


妻と娘を亡くした夫の手記を中心に、関係人物のインタビューを交えて構成される「事件」は、真相に届くようで届かず、もどかしい思いをさせられますが、ラストには衝撃の事実が明らかに……いや、実を言うと本書の仕掛け自体はそれほど驚くものでもないのです。問題は、読み終わってなお、何が事実なのか判然としきらないことです。パズルのピースをそろえてはみたけど、なんだか合わなくない? 的なモヤモヤ感。そして読者は、ついつい2周目に突入して伏線探しをはじめてしまうわけで、僕も御多分にもれずでした。さすがに細かくは読まず、飛ばし飛ばしでしたけどね。そこまでさせるだけのパワーが有った作品ということです。


傑作と言って良いのか分からないのですが、力作というか意欲作というか問題作というか。多分、波長の合う人が読んだら、僕よりも高い評価になるんじゃないでしょうか。


直接のつながりは全くありませんが、「面白くて情報もたくさん提示されるけど、結局最後まで真相が良く分からない」という意味では連想したのは「Remember11」でした。今からでも完全版出してくれませんかねえ、あれ……。