「太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで」

太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 上

太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 上

太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 下

太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで 下


なかなか読み応えがあって面白い歴史物でした。サブタイトル通り、太平洋戦争の序盤、日本軍による真珠湾攻撃からミッドウェイ決戦に至るまでの約半年を書いた上下巻です。作者はアメリカの若き歴史学者ということですが、日本にも在住したことがあるということで、また、世代的なものもあるのでしょう。日本側の状況や資料もしっかりと取り上げ、比較的中立的、客観的な文章と感じられました。


本書で取り上げられるのは、日本軍が快進撃を見せた期間です。山本五十六司令長官が考案した乾坤一擲の真珠湾攻撃から、日本は破竹の勢いで東南アジア・南太平洋へと進出し、連合国は震撼しました。だからこそ、アメリカから見て「太平洋の試練」というタイトルなわけです。しかし、苦戦する中でもアメリカは反撃の力を蓄え、ドゥーリットル空襲で一矢を報いると(ドゥーリットルが人名とは知りませんでした)、ミッドウェイの海戦で日本の空母四隻を撃沈、戦局を打開することに成功するのでした。


だいたいの流れは知っていても、こうして改めて順を追って読むと、知識が身につくものです。また、本書の優れたところは、当時の軍人や民間人の数々の証言を挟み込んで、その場その場のリアリティを感じさせるところでしょう。特に、真珠湾攻撃の際に、当初は誰も日本軍の攻撃とは思わず、大規模な味方の演習だと思い込んでいたというのが、実にありうると感じさせてくれる筆致でありました。また、常に戦いにおける犠牲者、負傷者に視点を配ることで、勝った負けたの一喜一憂から外れたところにある、戦争の悲惨さを思い知らせてもくれます。歴史物語としても一級だと感じられました(むしろ、厳密な史料性よりは物語性を重視しているような節もあります)。


それにしても、痛感するのは戦争における「油断大敵」という、古来から伝えられる言葉の正しさです。当初、日本を2流3流とみなして軽視し、ろくな対応ができなかった連合国。一方で、序盤の快進撃に舞い上がり、ミッドウェイ開戦前には機密保持も適当になっていた日本。「勝って兜の緒を締めよ」とは誰もが知っていることなのでしょうが、行うは難しということなのでしょう。


IFを一つあげるならば、「日本がミッドウェイで勝っていたら」というのがありますが、結局敗北は時間の問題だったんでしょうかねえ。もっと根本的な話、万一うまく勝利で講和できたとしても、それで日本が良い国になったのかというと、いまいち想像ができないというのがなんともです。いや、もしかしたらなったのかもしれませんが、僕を含め今の日本人の大半はGHQによる占領・改革を経た日本社会を生きてきたわけですしね。なかなか現実以外の展開というのを想定しにくいところがあります。


さて、本書は太平洋戦争を書いた3部作の第1部ということ。ということは、続巻も楽しみですね。もっとも、ここから先は日本としてはどんどん後退になってしまいますが。