「プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクス・リポート2」

プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクス・リポート2

プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクス・リポート2

今年も無事発売されました、日本野球のセイバーメトリクス研究を引っ張る著者陣による意欲作。ちなみに去年版の感想はこちらです。


今年の売りはなんといってもWAR(Wins Above Replacement)の公開であり、投打合わせてすべての一軍出場選手(多分)の数字が載っています。一応解説しておきますと、WARというのは「その選手が控え選手に比べてどの程度の勝利をもたらす価値があるか」という指標であり、両リーグトップの巨人・阿部はこれが9.7。つまり、控え捕手レベルの選手に比べると、阿部がいるだけで貯金が19以上も稼げるという事になるわけですね。恐ろしや。逆に、万一阿部がフルシーズン故障しようものなら、さしもの巨大戦力も危ういということが見えてきますね。


で、このWARのトップクラスは糸井とかマエケンとか田中マー君とか、納得のメンバーが並ぶのですが、驚いたのはラミレスが最下位近くにいたことです。その数字は−0.1。なんと、控え選手にも劣るという評価ではありませんか。本書によると、打撃だけなら+24.2点分と高い数字ですが、守備で−39.8点という壊滅的なマイナスを叩きだしてしまっているとのこと。……ううむ、統一球で3割19本打ってさすがラミレスと思わされたものですが、そこまで守備がひどかったとは。これを中畑監督が見たらどう思うかと考えさせられちゃいますね。


さて、個人的にはWAR以上に嬉しかったのは、付随して公開された守備指標であるUZRです。守備の巧拙というのは素人にはなかなかわかりませんからね。まだ不完全な指標とはいえ、数字で示されるのは大変興味深いところですよ。


西武で言うと、センター秋山の+13.9はさすが。ショート中島の−23.2は、今年平均レベルのショートで埋められれば大きい。浅村はファーストでもセカンドでもちょっとマイナスか……。サードヘルマンの−14.0は主観印象と一致しますね。レフト栗山の+18.2はいくらなんでも高すぎなような……。まあ、守備指標は数年見ないとわからないと言いますので、来年発表されるであろう今年の数値にも注目しましょう。


その他読み物も前年以上に充実し、楽しめました。セイバーメトリクス好きなら買って損なしの一冊かと思います。あえて難点を上げるとすれば、全体的に「表と文章をそのまま載っけてみました」的そっけないデザインですが、これは前年同様。商業出版とはいえ、マニア向けの同人誌っぽい雰囲気はありますね。本家アメリカのセイバーメトリクスも同人誌からスタートしたということなので、その意味では伝統を継承している、のかも?