「マツダ商店(広島東洋カープ)」はなぜ赤字にならないのか?」

「マツダ商店(広島東洋カープ)」はなぜ赤字にならないのか?

「マツダ商店(広島東洋カープ)」はなぜ赤字にならないのか?

近所の本屋には見当たらず、Amazonで注文しました。どうやら文工舎というのは広島の出版社さんのようで、置いてあるのは地元中心なのかな?


それはともかくこの本、タイトルだけみると経済誌の見出しみたいですが、実際は広島カープの現状を憂い、オーナーである松田氏を鋭く批判した一冊なのであります。


カープといえば「市民球団」というイメージがあり、「貧乏だから補強できなくてもしょうがない」という良くも悪くも清貧的な語られ方がされることが多いです。しかし広島在住で熱心なカープファンである著者はその「常識」に反旗を翻します。カープは十二球団の中で唯一、市民どころか会社ですらなく、松田家という一つの家に保有されているではないかと。そしてまた、タイトルにもあるように長年(40年以上)にわたって黒字を計上しているではないかと。


黒字を出すこと自体はもちろん悪いことではありません。しかし、それにあぐらをかき、補強をおこたり、優勝を狙えるチームを築こうとしないのは、オーナーとしての責務の放棄であり、公共財としてのプロ野球団の私物化である。著者は熱心に訴えます。


現在15年連続Bクラスのカープファンからしてみると、この嘆きは至極もっともなものでありましょう。野球ファンとして共感します。ただ、それと同時に「日本におけるプロ野球興行の主眼とは何か」という点をあらためて考えてしまうのでした。上にも書いたように、興行において黒字を目指すのは当然といえば当然のことであり、収入の枠内においてチームを運営しようというのが間違いだとも断言しにくいのです。今、経営巧者として評価される日本ハムも、親会社からの宣伝費をかなりつぎ込んで、ようやくの「黒字」ですから、それがないカープの黒字はすごいのはすごいのです。


果たして、「赤字でも良いから補強しろ。優勝をねらえ」というのが正しいプロ野球チームの経営法なのか? そもそも、赤字が前提という時点で日本プロ野球はどこかおかしいのではないか? その歪みがたまたまカープというチームに目立って現れてしまっているのではなかろうかと思えてなりませんでした。


もっとも、そうした球界全体の課題とは別に、カープ個別の問題点というのはやはりありそうです。なかでも興味深い指摘は、2009年に新球場が出来て観客動員が伸び、収入が前年比46億円増加したにも関わらず、カープの発表した利益が2億円から4億円と、わずか2億円しか増えなかったという点。一体44億円はどこへ消えたのか? 球団の収支が不明瞭なことは、これもカープに限ったことではありませんが、オーナーの一族経営という点を考えると、気になるところではありますね。だいたい、利益が年3億円でも10年ためれば30億になる計算で、たまには大補強できそうなものではあります(もっとも、公平を期すために言うと、近頃のカープの総年俸は、数年前よりも多少上昇しているようです)。


本書の中盤は過去のプロ野球の個人オーナー等のエピソードが挟まれ、プロ野球史としては面白いものの、直接カープに絡んでいなかったのはちょっと退屈だったかな。あと、「球団は前田健太の年俸を抑えるべく、活躍の邪魔をしているのではないか」なんてのはさすがに著者の邪推でしょう(まあ、前田の年俸交渉越年、なんてニュースを見てると、ホントっぽく聞こえてくるのが怖いところですが)。


いずれにせよ、ファンからすれば「赤字でもなんでも強くなってほしい、優勝をねらってほしい」という要求は正しいのです。プロ野球全体で見ても、低迷し続けるチームがあることはプラスにはなりません。ペナントレースであれ、球団の改革であれ、カープには批判を跳ね返すだけの結果を見せてもらいたいところですね。