「国土と日本人 災害大国の生き方」

国土と日本人 - 災害大国の生き方 (中公新書)

国土と日本人 - 災害大国の生き方 (中公新書)

建設省職員の著者による、日本の国土の特徴と、その開発について書かれた一冊。要点は読みやすく主張はシンプルに。完成度の高い新書でした。


著者はまず、日本の国土を欧米主要国と比較し、その特徴を浮かび上がらせます。国土が北東から南西への弓状であって、意外と長距離に及ぶこと。島国であり、主要な島だけでも四島あること。中央を大きな山脈が走り、平野の少ないこと。そして、地震や台風といった災害にあいやすいこと。


どれも小中学校で習うような知識ではありますが、あらためて見直すと、例えばドイツやフランスなどと比較して、これらは日本の大きな弱点と言わざるを得ません(あくまで「開発」という面に関しては、ですが)。両国とも平野は広く、領土は四角形に近く、地震の心配はほとんど無いという、日本から見るとうらやましいような条件を備えているのです。アメリカや中国は日本より広大ですが、やはり地震の起こる場所は限定され、平野は広く、国土はほぼ一体です(アラスカは飛び地ですけど)。う〜ん、こうして考えるとハンデが大きいなあ……。


しかし、嘆いてばかりもいられません。著者は古代から日本人が行なってきた国土づくりの歴史を振り返り、日本の一層の発展のためにも、さらなる国土の有効活用こそが重要であることを力説します。日本は財政危機の元、近年公共事業を減少させてきていますが、その間、北米はもちろん、日本と同じく少子化、人口減少の状況にあるEU諸国も公共投資を増やし、インフラを整えているとのこと。


目先のコストパフォーマンスのみにとらわれず、長期的視野に基づいて積極的にインフラを整えていかねば、今後の国家間競争に太刀打ちできなくなると警鐘を鳴らすのでした。


何やらこのへん、自民党が唱えている国土強靭化計画を連想するものがありますが、現在の国家行政の方向性がこういうものなのかも知れませんね。説得力は感じる反面、とは言っても先立つものはどうするのか、という疑問もなきにしもあらずではあります。


日本の国土の特徴について再認識できたのは面白かったところで、できればより日本に似た国土を持つ国との比較もあると、なお興味深かっただろうと思います。例えば、島国で山脈があって地震もあるという点ではニュージーランドとか(人口が違いますが)、南北に長いという点ではチリが一番だろうとか。何も欧米主要国とばかり比較しないでも、という気はしましたかね。その点はある意味官僚的発想なのかも。