「ヤマダ電機の暴走」

ヤマダ電機の暴走

ヤマダ電機の暴走

最近ではもう、どこへ行っても見かけるヤマダ電機。家電量販店最大手として、向かうところ敵なしの勢いというイメージですが、実際のところはどうなのか。本書はヤマダ電機の誕生から今日までの拡大と課題をおった一冊です。


群馬の小さな店舗からスタートしたヤマダ電機が、安売りを武器に成長し、他の量販店と熾烈な競争を繰り広げつつ、メーカーから価格決定権を争奪して、日本中に広がっていくという成功物語。その反面で、人口30万人規模の郊外都市では有効だった手法が、大都市ではなかなか上手くいかないという実情も紹介されていました。そういえば、池袋では鳴り物入りで開業し、元々存在していたビックカメラとの競争が喧伝されましたが、少なくともビックカメラがそれで潰れたなんて話は聞かないですよねえ(売上の内情までは分かりませんが)。


著者は、ヤマダ電機の唯一の武器は「安売り」であり、それは強力ではあっても万能ではない、という見方をしています。安売り以外の経営・接客などのノウハウが不十分なのがヤマダの弱さだと。また、強引なまでの拡大政策は「優越的地位の濫用」による公正取引委員会の排除措置命令などにもつながりました。結構大きく報道されたので覚えていますが、これによってヤマダ電機のイメージが悪化したのは確かですね。


最後に、著者はヤマダ電機が「売上3兆円」を掲げ、中国という新たなマーケットに進出する姿を書きだして、巻を終えています。ただ、本書が出てより2年。売上や利益はむしろ落ち込み、2006年の最盛期には1万5000円あった株価も、5分の1の約3000円となってしまいました。成長イメージも失いつつあるヤマダ電機にとって、今が正念場なのかもしれませんね。


なお、本書を著した立石泰則さんは、以前読んだ「魔術師―三原脩と西鉄ライオンズ 」でも読み応えのある文章をものしてくれていました。タイトルこそ「暴走」とかなり批判的なようですが、実際は結構客観的で、全体的に辛口ではあるものの、批判一辺倒というわけでもありません。そうした筆致にも好感がもて、また著者の本を読んでみたいと思わされました。