「冒険投資家 ジム・ロジャーズ世界大発見」

冒険投資家 ジム・ロジャーズ世界大発見

冒険投資家 ジム・ロジャーズ世界大発見

ジム・ロジャーズと言えば、僕のような素人投資家でも知っている大物投資家ですが、ウォール街で成功したあとで冒険旅行家になっていたとは知りませんでした。本書は、ロジャーズ氏が愛車を駆って、文字通り世界中を旅した紀行です。「飛行機で国から国へと移動するだけでは、本当にその国に行ったことにはならない」という著者のポリシーから、まさに体当たりで国境越えに乗り込んでいく姿がパワフル。


普通の旅行記として読んでも楽しいですのが、本書のユニークなところは著者が投資家としての鋭い視点から、各国の事情や将来性を見抜いていくところです。かつて期待したアフリカやアルゼンチンの現状に失望し、インドのお役所仕事やオーストラリアの閉鎖性を批判し、中国の資本主義に未来を見る。ロシアや中央アジアは国としての実態がなく、将来は分裂するだろうとすら予想しています。


なかでも印象的だったのはユーロの評価であり、各国の財政規律が緩む方向にあることから、「残念ながら、長期的に生き残るとは思えない」と結論づけています。実は、本書の旅は99年から01年にかけてのもの。10年以上も前のことなのに、昨今の欧州問題そのままの解説です。やはり見る人は見ているものだと、慧眼にうならされました。


自国アメリカについても、政治家が余計なことばかりして、各国で恨みを買うから9.11につながるのだと指弾。FRBで名を馳せたグリーンスパン議長についても「中央銀行なんて民間で通用しない人がいくところ」「バブルを生み出した」と辛口です。政治家は経済や世界の歴史についてあまりにも無知であるという嘆きは、ひょっとしたら世界共通なのでしょうか……。


国だけではなく、NGOや国連組織にも舌鋒は向けられ、現地では贅沢な暮らしをしているばかりで、新手の植民地主義者だとバッサリ。固定観念にとらわれないで自分の目で見て考える、著者の「強い頭」が感じられる部分でした。


なお、気になる日本については5週間滞在し、「目も眩むような豊かさ」で「素晴らしい観光の地」「豊かな文化の伝統」と賞賛する一方、日本が抱える財政問題少子化については、「自業自得」と手厳しい言葉を寄せています。自民党補助金漬け政治や、移民を受け入れない閉鎖性、お役所的硬直性が、日本から競争力や創造力を奪ってしまっていると。


日本にかぎらず、ロジャーズ氏は資本主義と自由の力を信じ、抑圧や規制、排他性を嫌います。今の日本におけるTPPの反対論を見たら、きっとがっかりするでしょうね。まあ、僕としても難しい問題だとは思いますし、なかなか結論が出せないのですが、いささか論調が内向きなのは否めないかなと。


今となっては一昔前のお話とはいえ、読むだけで見聞が広がる好著でした。