ベーシックインカムについてちょっと考えた

橋下徹氏が手に入れた「ベーシックインカム」という新兵器(山崎元のマルチスコープ・ダイヤモンド・オンライン)


ベーシック・インカム制度についてはこれまでさほど知識も関心もなかったのですが、たまたま上記の記事に当たって興味深く読みました。全国民に一定額(山崎さんは試算として一人5万円としています)を支給することで、代わりに年金・生活保護制度などを撤廃し、それに伴う事務コストを削減できるというお話。一見荒唐無稽なようですが、よくある批判とそれに対する反論も紹介され、なかなか納得できる部分もありました。


……ただ、いくつかの点で疑問に感じるところもあり。たとえば「お金持ちにも現金を払うのはムダだ」という、素朴な批判に対して山崎さんは「事務コスト削減の価値のほうが高い」と説明しますが、さて、理屈は正しいとしてもそれで納得できるかは微妙なところ。行動経済学ではないですが、「多少のコストをかけてでも、お金持ちには支給しないで欲しい」という感情はくすぶるのではないかと予想します。


また、「働かない人にお金を配ると、労働意欲が損なわれる」という批判も重要な論点で、山崎さんは

「働いて稼げば、それだけ多く使える」し「働かなければ、使えるお金が減る」というインセンティブの構造に変化はないから、多くの能力とやる気のある人は働くはずだと反論できる。


としていますが、正直反論としてはちょっと弱い気がします。この政策が実現したら、絶対に「月5万円で生きていく方法」みたいなムックがベストセラーになりそう。1人5万円なら苦しくても、友人と協力して10万円でルームシェアとか、夫婦と両親の実家住まいで20万円でやりくりとかならガンガン出てくるでしょう。


それと、一律5万円支給だと、その分会社は給料を減らしてくると思うんですよね。今まで月給25万円だったのが20万円になるとか。それはつまり、労働時間あたりの単価が下がるわけで、その辺が経済にどれだけ影響を与えるか(よく言えば、企業が人を雇いやすくなるとも言えますが)、見えてきません。


最後に、一番重要なのが財源論。という以前に、そもそも収支が合うのか。事務コストの低減と言いますが、公務員を多めに見積もって10万人削減できたとしても(実際はここまでは無理でしょう)年収600万円で計算して、浮くのは6000億円。ベーシックインカムの給付が1人年60万円ですから、その分は100万人に給付した時点でトントンです。年金その他の支給はなくなるわけですが、それでも消費税数%程度の増税が必要と山崎さんも認めているわけですから、結局は支出大幅増になってしまうと思うのですが。


それに、現在年金を10万円なり15万円なり受け取っている人達がたくさんいるわけです。そういう人達に、「今度から8万円(老齢加算3万円とのことなので)でやってくれ」と言って納得が得られるとはとても思えないんですよね。下手すれば生活破綻しちゃいますし。山崎さんは政策実現の障害を官僚組織に見立てているようですが、むしろ現在の受給者を説得できるような現実的な解を示して欲しいと思いました。


ということで、面白い話とは思いましたが、現状では否定的です。いずれにしても、実現性の薄そうな話ではあるかなと。