「ルワンダ中央銀行総裁日記」

ルワンダ中央銀行総裁日記 (中公新書)

ルワンダ中央銀行総裁日記 (中公新書)

評判を聞いて読みました。なるほど、これは良著ですね。


著者が1965年にルワンダ中央銀行総裁に任命され、同地の経済成長に奮闘した6年間を振り返った手記。原著の出版は1972年と随分昔のことで「そんな古い話を読んで面白いのだろうか」という疑問もあったのですが、まったく関係ありませんでした(なお、僕が読んだのは2009年の新版です)。中央銀行と経済の重要性、そしてなにより、困難な仕事に立ち向かう人々の勇気というのは、いつの世であっても変わらず重要なものなのですね。


ルワンダというと、今でもアフリカの発展途上国というイメージが強くありますが、著者が赴いた1965年ともなると、独立直後でもあり、世界でも最貧国の一つであったということ。外国人が中央銀行総裁になるというのも驚きますが、それだけの知識技量を持った人物が国内にいなかったということでもあるのですね(現在でも、発展途上国ではそのようなことがあるのでしょうか?)。


著者は、ルワンダの貧しさはもちろんのことながら、業務に不理解な政府、能力の低い職員や、アコギな商売をする外国(主にヨーロッパ資本)商人らに真っ向対峙します。と言っても、高圧的に命令したのではありません。よくよく現地経済を見聞きして調べ、その上であくまで対話をもって利を説き、その正当な権限でもってルワンダの発展に尽くしたのです。やがて、大統領を始め、著者を信頼し、協力する人が増えていきました。そしてルワンダの経済は離陸し、発展の緒につくことができたのです。


一連の流れで感嘆するのは著者の「気骨」ですね。「自分の仕事はルワンダ中央銀行総裁として、ルワンダの経済発展を成功させることだ」という覚悟です。上記のように、原則としては対話による説得を優先しますが、それでも駄目なときは、信念をもって総裁権限を行使します。嫌われたらどうしようなどと臆したりはしません。なるほど、仕事の出来る人とはこういうものかと思わされました。


印象的だったのは、「私は世界で最も優秀な日本銀行に勤めてきました」という言葉がたびたび出てくること。それだけの自負を日本銀行に持っていたのですね。最近では日本銀行が優秀という声はあまり聞きませんが、昔は優秀だったのか、それとも不正確なバッシングが行われているだけで、今も日本銀行は優秀なのか。……まあ、そのへんは別の話ですが。


著者の帰国後、ルワンダは80年代前半までは順調な経済成長をみせますが、80年代後半に入り、フツ族ツチ族の大規模な内戦から、虐殺行為をも招いてしまいます。新版増補ではそのことにも触れていますが、著者の心中の悲痛たるや、いかばかりのものだったでしょうか……。


今までアフリカの遠い国、内戦のあった国程度のイメージしか無かったルワンダでしたが、本書を読んだことで親近感が湧きました。当たり前ですが、どこの国にもそれぞれの歴史と奮闘があるものなのですよね。