「弱い日本の強い円」
- 作者: 佐々木融
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2011/10/12
- メディア: 新書
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好評を聞いて購入。いやなるほど、確かに面白かったです。為替相場という、難しくなりがちなテーマを平易に、それでいて奥深く解説。元日銀マンで、現在はJPモルガン・チェース銀行に勤務するという著者の経歴も説得力十分です。
特に本書で強調されているのは、逆説的にタイトルにもなっているように、
「国力と通貨の強さは無関係」
という点です。良く「日本は衰退するから円安になる」とか、逆に「こんな円高だからやっぱり日本はすごいんだ」的論調を目にしますが、実際にはこれらは的外れで、為替は長期的には購買力平価、中期的には経常収支で決まるとの由。購買力平価説は一応知っていましたが、経常収支についてはこれまで考えていなかったので、目からウロコでした。
また、円高円安の分析をするには、ただドル・円相場のみを見るのではなく、他の通貨との強弱も同時に見なければ当を得ない事になると指摘し、少なからぬメディアがその点を理解せず、妙な解説をしていると批判しています。一例として、リーマン・ショック時に円はドルに対して強くなったので、「金融危機でドルが売られた」と解説されましたが、実際はドルは円の次に強かった事実を紹介しています。これは、金融危機だからこそ、アメリカ人が資産をドルに引き上げたためとのこと。また、今年の震災後に急激に円高が進んだのも同じ流れであったと。なるほどとうならされます。
なお、為替がこうした背景で決まっていく以上、当然、政府の為替介入には効果がなく、むしろ含み損と為替リスクを増やすだけであるということも説明されています。まあこれについては、素人目で見ても数日間しか効果のない介入なんて意味無いよなあ、という印象だったので、それが裏付けられたというところ。むしろ、なんでそんな意味のないことを何回もするのか、と嘆きたくなります。
こういう良書を読むと、ネット時代とはいえ有料の本という形式にもやっぱり十分な価値があるのだと、そんなことまで思わせてくれる一冊でありました。