「サクラダリセット 1〜4」

なかなか不思議な雰囲気の良作ですね。多くの人が不思議な能力を持つ咲良田市を舞台に、「記憶保持」能力を持つ少年、浅井ケイと、「リセット」能力を持つ少女、春埼美空を中心とした物語。キャラの名前ではなく、地名がタイトルに入っているのは珍しいかも。能力物といっても派手なバトルがあるわけでもなく、静かな心情描写で読ませる作品です。


春埼の「リセット」はセーブしたところまで最大3日分時間を巻き戻すという反則的能力で、それだけ聞くと流行りのループものを連想しますが、ユニークなのは春埼自身、リセットした分の記憶を失うという設定です。だからこそ「記憶保持」ができるケイとコンビでワンセット。


ラノベで少年少女の組み合わせというと、少年が鈍感だったり少女がツンデレだったり的なラブコメを想像してしまうところですが、本作においてはちょっと雰囲気が違います。まあ広く言えばラブコメなんでしょうが、どちらかというと「相棒」みたいな感じでしょうか。う〜ん、いや、それもちょっと違うかな。


ケイも有能でかっこよく興味深いキャラですが、なんといっても今作の中心はヒロインである春埼でしょう。まるで感情を喪失しているかのような彼女。パッと見、いわゆる綾波系ヒロインとまとめられちゃいそうですが、それだけでは終わらない不思議な魅力と言いましょうか、「人間的じゃないのに人間性を感じさせる」描写が光ります。


自分がリセットしたことすら覚えていないって、結構怖いことのように思えますが、それを淡々とできるのが春埼。今はケイを信じ、付き従っていますが、そんな彼女がすこしずつ自らの感情を自覚していく流れが見どころの一つですね。


……ところで、春埼にも両親がいる筈で、少なくとも母親の存在は文中で確認できるのですが、一体親御さんはこの風変わりな娘をどう受け止めているんでしょうかねえ。そこが気になったり。温かく見守っているのであれば良いのですが。



なお、4巻収録の短編「ホワイトパズル」も秀作でした。