「ライアーズ・ポーカー」

ライアーズ・ポーカー (ウィザードブックシリーズ)

ライアーズ・ポーカー (ウィザードブックシリーズ)

時は1980年代後半。活況のウォール街にあって、大いに伸長し、その後つまづくことになる大手投資銀行ソロモン・ブラザーズ。新人トレーダーとして入社した著者が、当時の乱雑にして豪快、拝金主義的で競争の厳しい同社の雰囲気を生き生きと書きだした一冊です。


客を騙して値下がりする債権を買わせても、それは買った方の責任。売上を稼げればすぐに数百万ドルのボーナスとなり、一方で使えないトレーダーや収益をあげない部門には冷たい目が向けられる。新入社員は研修生の頃から取締役に気に入られ、良い部門に配置してもらうように必死。そんな生き馬の目を抜く様な金融界。いやあ、いくら給料が高くても入りたくないなあ、と思わせてくれます。


面接で正直に「お金がほしいから志望しました」というと批判される欺瞞や、先輩社員の新人イビリは、ああ、アメリカであっても(というより世界中で)こういうことは行われているのであろうなあ、と嘆息でしたよ。


また、先日読んだ「天才たちの誤算―ドキュメントLTCM破綻」でも主役級で登場したジョン・メリウェザーは本書でもちょっと登場。まあ同じ会社なので、登場するのが当たり前なのですが、つながっていく人間模様が面白いです。


で、著者はそんな競争の中、1年目から好成績をあげ、凄腕トレーダーとして認められていきます。と言ってあくどいことをしたわけではなく、それなりに真っ当なやり方で売っていたようです。決して自慢気には書いていませんが、これは結構すごい話。副業として週末にはライターをしていたこともあり、他のトレーダーと違って「会社に忠実・人生は金融業に賭ける」という意識が薄く、冷静であったことが結果的に著者の成功につながったとも言えましょうか。


ただ、著者はその後すぐにソロモンを退社してしまいます。「自分の能力以上のお金をもらうのが信念に合わなかったから」と著者は書いています。ここに著者の冷静さと、見事な思い切りがあるではないですか。マイケル・ルイス氏、なかなかやりますね。


その後、著者はライターとして成功しました。もし彼がずっとソロモンにいたら、名著「マネー・ボール」も生まれなかったかもしれません。野球ファンとしても、感謝すべき決断だったのではないでしょうか。