「ポパーとウィトゲンシュタインとのあいだで交わされた世上名高い一〇分間の大激論の謎」

ポパーとウィトゲンシュタインとのあいだで交わされた世上名高い一〇分間の大激論の謎

ポパーとウィトゲンシュタインとのあいだで交わされた世上名高い一〇分間の大激論の謎

1946年のケンブリッジ大学の一室で、ポパーウィトゲンシュタインの間でかわされたという白熱の議論。ウィトゲンシュタインが火かき棒を手にポパーに迫った、というエピソードはかなり有名な話……らしいです。らしいというのは、僕は本書で初めて知ったからなのですが、それから60年以上。今や当事者の記憶も定かではない状況に丁寧に迫り、考察する一冊でした。


ウィトゲンシュタインは、言わずと知れた20世紀哲学の巨人。ポパー知名度では少々劣りますが、数々の栄誉を受けた大家です。いわば大スター2人が生涯で一度だけ出会い、決裂した10分間というのが、この「事件」を魅惑的にしているのでしょうね。


タイトルは「大激論の謎」とあり、いかにも議論の内容を精密に追いそうなイメージですが、実際にはむしろ2人の足跡を通じて戦中戦後のヨーロッパ哲学の流れをあぶり出すような構成になっています。同じユダヤ系の上流階級として生まれ、ナチスの迫害を受けながらも、2人の生き様と哲学は大きく異なっていきました。まあどっちか言うと、ポパーが一方的にウィトゲンシュタインをライバル視していたようではありますが。


それにしても本書で印象的なのは2人の特異な人間性。こう言ってはなんですが、哲学者=変人というイメージを見事に体現してくれます。特にウィトゲンシュタインについての友人や弟子のコメントは、彼の圧倒的な迫力と威圧感を伝えてくれます。恐怖され、崇敬される存在だったウィトゲンシュタイン。実はすごいのは彼の思想ではなく、そのカリスマ性だったのではないかとさえ感じられました。


面白い本でしたが、上述のように肝心の議論の内容が良く分からなかったのはちょっと残念。二人の思想の詳細については他書で、ってことですかね。