「宇宙を織りなすもの――時間と空間の正体」

宇宙を織りなすもの――時間と空間の正体 上

宇宙を織りなすもの――時間と空間の正体 上

宇宙を織りなすもの――時間と空間の正体 下

宇宙を織りなすもの――時間と空間の正体 下

物質とは何か、時間とは何か、宇宙の始まりと終わりはどうなっているのか。人類始まって以来の究極の問いに挑み続ける物理学。本書はその最先端を(できるだけ)分かりやすく解説してくれる力作です。


僕も今までこの手の本を結構読んできましたが、その中でも本書はかなりお薦めの部類。相対性理論はもちろん、量子論に、超ひも理論といったあたりの流れをきちんと押さえ、壮大なスケールを感じさせてくれます。著者がさまざまなたとえ話を使い、数式を用いずに説明しようとしてくれるので、頭をひねって何とか理解しようという気になりますね。翻訳の青木薫さんも定評のある方ですし。


個人的には、相対性理論の時間と空間の関係。「光速度不変」は知識としてはともかく、感覚的にいまいちぴんと来なかったのですが、「空間内を進む速度と、時間内を進む速度を合わせたものは、必ず光の速度と同じになる」という記述に「ははぁ」とうなってしまいました。なるほど、これは直感的に分かりやすいです。さらに、宇宙を満たしているという「ヒッグスの海」については全然知らなかったので、刺激的でしたね。われわれが加速度運動に対する抵抗を感じるのは、ヒッグス粒子と干渉しているからである、と。これは驚きでした。


上巻で基本を押さえたあとで、下巻ではいよいよ著者のメインフィールドである超ひも理論の世界に分け入っていきます。「物質は粒子ではなく振動するひもで構成されている」というのが超ひも理論の骨子ですが、そもそもなぜそういった考え方が出てきたのかというと、それによってクォーク各粒子や、まだ見ぬ重力子の性質を綺麗に説明することが出来るから、らしいです。


さらに超ひも理論をおしすすめると、宇宙には11次元が必要であるという話になってくるわけですが、ここでも著者はCGやたとえ話を使ってこの「追加次元」の解説をしてくれます。「遠くから一本の綱を見ると一次元だが、近くで観察すると丸まった表面や、綱の内部といった別の次元が隠れている」。……ううむ、分かるような分からないような。宇宙にはそんな、われわれが触れることの出来ない次元があふれているってことなんですかねえ。


さらに本書はブレーンワールドとかサイクリック宇宙論かますます奥深い世界を紹介してくれますが、この辺になると現代技術では観測そのものが不可能なわけで、半分哲学上の世界と思わないでもありません。以前「超ひも理論を疑う―「見えない次元」はどこまで物理学か?」という本を読みましたが、科学なのか机上の空論なのか、分からなくなってきます。


そもそも、量子論あたりから「世界は確固とした物質の集合体である」という前提自体が通用しなくなっているわけで、その不可思議さがまた神秘的であり、面白くもあるんですけどね。


こういう本を読んでいると、日常がとてもちっぽけで、それでいて奇跡的な世界であることを感じさせてくれるのが好きです。どのくらいの人が好むジャンルなのか知りませんが、ぜひとも多くの人に触れてもらいたいものです。


余談ですが、STEINS;GATEをプレイした者としては、CERNとかミニブラックホールとかいった用語が出て来るとニヤリとしてしまいます。でも同時に、タイムトラベルやらタイムリープがとてもじゃないですが不可能そうなことを、あらためて突きつけられてもしまいますねえ。