「ひまわりアクアアフター」(ぶらんくのーと) 感想

実は、入手自体はかなり前、8月中にはしておりました。それでもこれまで手をつけなかったのは、「STEINS;GATE」を優先したからということもありますが、「怖かったから」というのが一番の理由であったりします。


アクアルートはひまわりの中で、もっとも燦然たるハッピーエンドであり、二人の未来を祝福したいと思わせてくれる物語でした。後日談を加えることで、その後味を悪くしてしまうのでは、という危惧が大きかったのです。ネタバレにならない程度に見たネット上の評価もその不安を拡大しましたし、なによりひまわりファンブックのドラマCDを聞いて確信しました。「ごぉさんのシナリオは基本的に容赦が無い」ということを。


だから、手をつけるのは相当に覚悟が要りました。それでも、一度起動すれば後は一気に引き込まれるさすがの筆力。最初から最後まで一気呵成の2時間半。



……やっぱり、覚悟しておいて良かったです。いや、それとも覚悟しきれてなかったと言うべきか。


間違いなく面白い物語でしたが、「本当にこれで良かったのか?」という疑問が頭の中を離れません。




以下ネタバレでの感想です。









<シナリオ>
ケンカを繰り返しながらも恋人としての仲を深めていった陽一とアクア。やがてアクアの妊娠が判明し、陽一は宇宙の夢をあきらめ、地上でアクアとともに過ごして行く事を決意する……。


とまあ、あらすじを書き出すのはこのくらいにしておきますが、並の作品であれば、最初に産むか産まないかで波乱がありそうなところ、ちゃんと最初から産む方向で通しているのは好感。実際、「夢は夢、これからは家族で生きよう」でも話は成り立ったのかもしれません。でも、それで終わらせないのがひまわりです。あくまで夢を追う陽一が好きだというアクア。相互依存から一歩進みだすために、二人は結婚し、再会を約して一旦道を別れるのでした。


紆余曲折ありましたが、綺麗なラスト。繰り返しになりますが、並みの作品であればこれで十分なエンディングだったでしょう。……でも、やっぱりそれでもひまわりは終わってくれないのですね。そこからなお続く2ndエピソードには驚愕しました。1stエピソード終了後に現れる「アクアを愛し続けることを誓いますか」の選択肢は本当に洒落ではなく、重いものだったんだなと思わされます。


とにもかくにも、旭……。生まれることすらかなわないなんて。しかもそれが母親であるアクアの手によって行われてしまうなんて。あまりにも不条理。かわいそうすぎます。アクアの悩みは伝わりましたが、決断にはやはり賛同できないし、賛同してはいけないもののような気がします。法律的にも堕胎罪に当たると思いますが、仮に起訴されなかったとしても、アクアは一生罪責を背負っていくことでしょう。父親であり、伴侶である陽一に一言の相談もしないというのも疑問。



ふと、エヴァンゲリオンのユイのセリフが思い浮かびました。


「あら、生きていこうと思えばどこだって天国になるわよ。だって生きているんですもの。幸せになるチャンスは、どこにでもあるわ。」


これは楽観的に過ぎるのかもしれません。でも、母親が勝手に子どもの夢がかなわないと決め付けて殺してしまうのは身勝手に過ぎますし、鬼になってでも人類を守るというのなら、秋桜ごと殺さないと話が合いません。どうも理解しにくくて困ったことです。



<キャラクター>
○陽一
どういう流れで秋桜とコトに及んだのか描写があいまいなのでハッキリしませんが、いくらなんでも流されただけとは考えにくいので、やはり秋桜に操られたとしか……。秋桜こわいなあ。あと、子どもが産まれるまではアクアについているのが筋ってものでしょう。3月だからまだ大学が始まっているわけでもないですし。この点は無理を感じましたね。


○アクア
シナリオ欄でも書きましたが、本当にそれで良かったのかと。ラスト、妙にさっぱりしている感が気になりました。旭に対しても秋桜に対しても。苦労して、苦労して、産もうと頑張ってきたのに(妊娠中の辛さはこの手のゲームにしてはかなりリアルに書かれていたのではないでしょうか? と言っても本当のリアルは知らないのですが)、そんなに簡単に忘れられるはずが無いでしょうに。


秋桜も、多少の同情や共感があるとはいえ、不幸の元凶になった人物。そんなに友達っぽく振舞っていられるものか。疑問は残ります。


○アリエス
彼女は変わりませんね。相変わらず、純真さと不気味さと頭の良さを持ち合わせています。秋桜に負けず劣らず思考が読めないキャラ。もっとも、今回は怖い部分は控えめで、たびたびアクアたちの助けになってくれました。


○明香
もしかしたら本編からもっとも株を上げた人かも? 自らの死期を悟りつつも、気丈に、元気に、どこまでも優しい彼女。健気です。彼女にとってアクアは妹であり親友であり、自分が果たせなかった夢を託すべき人なのでしょう。だからこそ、アクアの「流産」は彼女にとっても大きなショックだったことでしょうね。ホントにね、彼女にももっともっと幸せが訪れれば良いんですけど。


秋桜
さて、今回の注目キャラ。生まれながらにルナウイルスを宿した少女。でも、やっぱり彼女は基本的には普通の人間で、感情も感覚も持ち合わせているようにしか見えません。まあ、陽一を襲った(?)りする常識はずれなところもありますが、それでも、人類の敵には見えなかったなあ。番外編コミックを見ていると特にその思いが強くなります。



<総評>
ごぉさんの後書きに対して答える形にするのならば、


「アクアは嫌いになりません。でも、シナリオ展開には納得いきません」


というところですかね。この世界を「無かったこと」にはできないでしょうが、必然ではなく、数ある未来の中の悪いほうの世界であると解釈することにします。あえてこのラストにする必然性があったのか、どうしても伝わらないんですよ。その説得力に欠けたという点で、失敗と言わざるをえない気がします。


ひまわり好きとしては、色々設定面で深められたのでそれだけでも面白かったんですけどね。