「完全なる証明」

完全なる証明

完全なる証明

本書は、「ポアンカレ予想」を証明し、世界を驚かせた天才数学者、グリゴリー・ペレルマンについて書かれた一冊です。ペレルマンと言えば、フィールズ賞も賞金の100万ドルも受け取らず、孤高の数学者として話題になりましたが、果たしてどんな人物なのか。


驚くべきことに、著者はペレルマン本人に会っていないそうですが、それでいて豊かに彼の実像を書き出しています。会わなかったと言うのは、別に著者がサボったわけではなく、会おうとしてもペレルマンが引きこもってしまっていて会えなかったわけですが、その分、周辺人物への丹念なインタビューが光っています。また、著者はペレルマンと同じくソ連で数学のエリート教育を受けた過去があり、それだけに当時のソ連の窮屈で停滞した雰囲気をリアリティを持って伝えてくれます。これは他の人にはなかなか真似のできない価値といえましょう。


で、本書を読んでの印象はというと、「ああ、やっぱりペレルマンは変人なんだ」というものだったりします。普通、この手の本を読むと「世間では誤解されてるけど、実はこんな人なんだ」的感想になることが多いのですが、ペレルマンの場合、ほとんど世間のイメージのままの変人天才数学者って感じでした。


幼い頃からその才能を認められ、周囲の人の尽力でさまざまな政治的、金銭的、さらにはユダヤ人であることによる人種的障害から守られてきたペレルマン(それにしても、仮にも平等をうたったソ連に公然とユダヤ人差別が存在したとは)。彼は数学の純粋で美しい世界に浸れたがために、現実の猥雑さに嫌気がさしてしまったのでしょうか。


しかし、彼はまだ44歳なのですね。もちろん数学者としては年ですが、勝手にもっと高齢っぽいイメージをもっちゃってました。今は研究所も辞めて故郷で暮らしているそうですが、また偉大な証明をしてくれるのではないか、という期待もしてしまいます。と言っても、僕には証明の内容はさっぱりなのですが。


なお、本書はポアンカレ予想そのものの内容とその証明法の詳細についてはほぼまったく触れられません。文系人間にも優しい仕様となっております。