「神は妄想である―宗教との決別」

神は妄想である―宗教との決別

神は妄想である―宗教との決別

利己的な遺伝子」で有名なドーキンス氏の大作。「神は妄想である」というタイトルは何かの比喩や話題の一部というのではなく、まさに直球そのままの主題であり、600ページ近くにわたり、著者の反宗教的立場が熱烈に書き出されていきます。


本書でいう神というのは人格神。すなわち、世界を作り、生物を生み出し、人間の出来事に干渉したり、善悪を判定して天国や地獄に送り込む類の神です。一応多神教も含まれるとは言っていますが、議論の中心となるのは、結局キリスト教ですね。著者と想定読者が英米圏の住人である以上、やむをえないところでしょうか。


著者は、進化論を中心とした科学的枠組みを根拠に、神の存在がいかに不合理であり、信じるに足りないものであるかを論じていきます。過去、そして現在も多くの人が神の存在を立証しようと理屈をつけてきましたが、それらは結局何の証明にもなっていないと説明します。そして著者は、宗教が争いの元となり、科学の発展を妨げていることに警鐘を鳴らし、科学と宗教の安易な共存はありえないと訴えるのでした。


とにかく、全編に渡りドーキンス氏の熱意があふれ、刺激的な一冊でした。はっきり言って、平均的な日本人の立場からすると、「キリスト教的な神なんて、そりゃ実在しないでしょう」の一言で終わりそうな話なんですが、それをこうして熱烈に語らなければならないところに、現在英米(特にアメリカ)のキリスト教に対する、氏の危機感が伝わってきます。実際、本書で紹介されている原理主義者達の言動には頭がくらくらしてしまいます。「神の愛」を信奉しているはずの人間から、著者への脅迫状が送られてくるという事実。これに限った話ではありませんが、人間の救いがたい矛盾を感じてしまいますね……。


欲を言えば、もっとキリスト教圏以外の世界――日本を含めた東アジア地方とか――にも言及して欲しかったのですが、まずは目の前の状況で手一杯ってことでしょうか。惜しいところでしたが、日本人にも十分に興味深い一冊かと思います。