「ドラッカー名著集12 傍観者の時代」

ドラッカー名著集12 傍観者の時代 (ドラッカー名著集 12)

ドラッカー名著集12 傍観者の時代 (ドラッカー名著集 12)

最近再評価で流行らしいドラッカーさんの一冊。実はドラッカーを読むのは初めてなのですが、本筋のマネジメント話をすっ飛ばして、いきなり自伝から入ってしまいました。しかし本書、著者自身の序文でも「一番面白い本と言われる」と語っているだけあって、非常に興味深く読めましたよ。「自伝」とは書きましたが、タイトルどおり、著者は自らのことを「傍観者」と位置づけ、主に彼が出あったさまざまな人について書き出していきます。だから「他伝っぽい自伝」という印象ですね。


第一次大戦後から第二次大戦あたりの時代までの欧米に生きた人々と、その社会。出て来る中で一番有名なのはフロイトですが、そのほかの人々は(特に日本人には)無名です。しかし、世の中には多くのユニークで、エネルギッシュで、有能な人たちがいるということに感嘆させられました。


以下、印象に残った言葉を2点。

「君にはまだよくわからないかもしれないが、あの戦争の最大の罪は、ヨーロッパを台無しにしたことではないんだ。台無しにされたヨーロッパを救うべき人たちを殺してしまったことなんだ。リーダーとなるべき人たちを全部殺してしまった」

著者の父親の友人であるトラウン伯爵が著者に語った言葉です。「あの戦争」は第一次世界大戦のことですが、今の日本には地理的にも時間的にも遠い、第一次大戦の悲惨と、それを受け止めた世代の嘆きをとどめた貴重な資料ですね。


「一年前に君が、ナチスは言葉通りのことを信じているんだから、言葉通りに受け取らなければ駄目だといったのを覚えている。でも僕は、選挙用の宣伝文句で何も意味は無いと思っていた」


語ったのは著者の知り合いで、後にナチスの幹部となり、終戦直前に自殺したヘンシュ。ナチス党員だった彼ですら、ナチズムを言葉通りには信じていなかった。あまりに過激で攻撃的なため、かえって信じられなかったんですね。実は多くのドイツ人も同じだったのではないでしょうか。本書はナチスを主題にした本ではありませんが、政権をとるや大学に乗り込み粗暴に圧力をかけてくるなど、ナチスの暴虐ぶりが書かれている部分があります。やはり恐ろしいと痛感しました。


それにしても、著者はやっぱり有能な人ですね。上述のように、主に他人について語った本であり、積極的に自慢しているわけではないのに、読みすすめていくうちに、さりげなく伝わってきます。頭は良くて外国語が出来るし、ナチスの怖さを正しく読み取って逃亡しますし、不況でも仕事はどんどん入ってくるし。すごいものです。真似しようと思っても、そうそう出来ませんよ。


いずれ、著者の他の本も読んでいきたいです。