「色のない島へ―脳神経科医のミクロネシア探訪記」

色のない島へ―脳神経科医のミクロネシア探訪記

著者のオリヴァー・サックスさんといえば、「火星の人類学者」や「妻を帽子とまちがえた男」といった著書で有名な脳神経学者。内容はデータベースをそのまま移させてもらいますと、

先天性全色盲の患者が集団で暮らすピンゲラップ島、原因不明の神経病が多発しているグアム島…。「島」という環境ゆえに特異な風土病が残るミクロネシア。奇妙な病気とともに生きる島の人々の日常生活を心暖まる筆致で描く。

というものです。

特に興味深いのは、本書のタイトルにもなっている、遺伝的に全色盲の割合が非常に多いというピンゲラップ島の話でした。世界的には希な全色盲が一般的であるからこそ、その人たちが差別されず、受け入れられているという社会。全色盲者は得意の暗いところでの視力を生かし、夜釣りの漁師として活躍しているそうです。

さらに、著者に同行した視覚生理学者のクヌート・ノルドビー氏自身、全色盲者であったということが、エピソードをより温かくしていました。クヌート氏が現地の全色盲の人々とすぐに通じ合い、胸襟を開いて語り合う姿は、感動的なものでした。

本書で特筆すべきは、風土病や障害の話とミクロネシアの紀行文が渾然一体となっていること。単なる「学者の話」だけでは終わらない内容の深みを感じさせてくれましたね。