「おいしいコーヒーの経済論」

おいしいコーヒーの経済論(「キリマンジャロの」苦い現実)

おいしいコーヒーの経済論(「キリマンジャロの」苦い現実)

コーヒーをめぐる南北問題やフェアトレードについて説明・分析した一冊。スタバやドトールは良く使うので、そのコーヒーはどこから来るのか、興味のある題材でした。


副題は「『キリマンジャロ』の苦い真実」ということで、コーヒー豆の中でも日本人が特に好んでいるらしい、「キリマンジャロ」ブランドが中心に取り上げられています。僕はコーヒーの銘柄にはさほど詳しくないんですが、そういえば缶コーヒーの名前にキリマンジャロとか書いてありますね。何でも、キリマンジャロは高級品なのだとか。缶コーヒーの豆なんてそんな高いものは使ってないイメージだったんですが、やはり各メーカーとも、少しでも売り上げを伸ばそうとこだわっているんですね。ただ、コーヒー豆を安く仕入れようとするのは販売側の論理な訳で、その影には苦闘するコーヒー農家の実情があります。


本書の特徴は、著者自らタンザニアのコーヒー農村と親交を結び、フィールドワークで生の状況を書き出しているところでしょう。投機家に左右される価格、収入の低迷で立ち行かなくなる農家、閉鎖されてしまう村の診療所。村人達の声がリアルに響きます。日本のカフェでコーヒーを買っても、生産者にはほとんど届かないという貿易の構図。コーヒー農家を救うべく、著者はフェアトレードの推進をうったえます。


経済論もさることながら、タンザニアの村のレポートとしても興味深く読めました。厳しい状況の中でも、先祖からの伝統であるコーヒー栽培を続け、村を発展させていこうという人々の力強さ。相互助け合いの文化。個人的には、バナナやトウモロコシといった、自家消費用の食べ物は確保できているというあたりが少し救いに感じられましたね。最悪でも飢えることはないのだなということで。まあ、そんなことでほっとしていてもダメなのでしょうが……。


それにしても思い出すのは、先日読んだ「まっとうな経済学」です。こちらの本では、あくまで市場原理が(最終的には)皆に富をいきわたらせ、フェアトレードは市場をゆがめて結局不効率になると書かれていました。でも本書を読むと、そもそも市場自体が不公正であることの異議申し立てとしてフェアトレードがあるのであって。う〜ん、どっちが正しいんだろう……。ネットで見てみても、どうもフェアトレードのあり方については議論があるみたいですね。ただ、本書を読んだ心情的には、フェアトレードがコーヒー農家の助けに(ひいてはコーヒーの品質向上にも)なってほしいと思うところです。



[関連リンク]ルカニ村・フェアトレード・プロジェクト