「「世界征服」は可能か?」

「世界征服」は可能か? (ちくまプリマー新書)

「世界征服」は可能か? (ちくまプリマー新書)


タイトルからして非常に魅力的であり、楽しく読めた一冊でした。


著者の岡田斗司夫氏についてはいまさら説明するまでも無いでしょうが、本書は、著者が以前からもっていた、「なぜ物語の悪の組織は世界征服を目指すのか」「どうしてそれは成功しないのか」という疑問について、書かれています。


著者はまず、「征服の目的」について「人類絶滅」や「お金儲け」等に分類し、さらに征服者のタイプについても「魔王型」「独裁者型」「王様型」等に分類します。ただ、アニメ・マンガ作品の中には肝心の征服の目的が不明なものも少なくないのだとか。設定が甘いわけですね。まあ、そこまで設定する意味が無いのかもしれませんが。


征服の目的が決まっても、実現は簡単ではありません。人材を確保し、資金と設備を整え、なおかつ絶妙の運用が必要です。このあたり、仮面ライダーレインボーマンドラゴンボールデスノート等、著者らしい豊富な作品知識をまじえ、話は軽快に進みます。


そしてとうとう世界征服成功! しかし、征服をしたら幸せというわけにはいきません。世界の国々は征服者にさまざまな難題をふっかけてくることでしょう。大企業の社長よろしく、名誉はあってもストレスばかりがたまる征服者生活。全然楽しそうではありません。目的が「人類絶滅」なら関係ないのでしょうが、異星人ならいざ知らず、普通の人はそんなの目的にしないでしょう。


結局、「世界征服は割に合わない」と結論されます。現実は厳しいなあ。



さて、本書、ここで終わればただの雑学考察本だったのですが、終章がぐっとシリアスに、読ませるものがありました。ざっくりまとめますと、


・「悪」とは現在の秩序を否定するものである。
・現在社会は、「自由主義経済による、貧富の差がある社会」「ネットによる情報化社会」である。
・だから、この流れに対抗する運動。すなわち、「フェアネス・トレード」とか、「非営利のボランティア活動」とか、「ネットに頼らず、直接のコミュニケーションを大事にする」ことこそが、まさに現代の「悪による世界征服」なのだ。


ちょっと強引ながら、はっとするような発想の転換でした。一気に現実的な視点に持ってくるところが上手いです。今後、本書を受けて、地道に世界征服を進める悪の組織がアニメやマンガに登場したら面白そうですねえ。