ひまわり日記 作品総評

<シナリオ>
なんといっても本作一番の売りどころ。公式サイトの情報と「ロリっ娘宇宙人同棲アドベンチャー」というコピーからでは到底想像のつかない奥の深さがたまりませんでした。数々の謎が収斂していく感覚は、まさにSFの王道! 他の方の感想でも名前があがっていますが、「車輪の国、向日葵の少女」(ヒマワリ縁ですね……)、あるいは「シンフォニック=レイン」を思い出しましたね。作りや仕掛けこそ違いますが、その雰囲気が。あと、連想したといえば「ロケットの夏」も忘れてはなりませんか。


一応反転。



なんといっても白眉はセカンドエピソード、星乃明香里シナリオでしょう。ここはもう圧巻。当初は脇役かと思われていたアクア視点での近未来宇宙生活。悲しい初恋物語。月の暗黒を行く二人の、超絶的なまでの孤独。まるで読むほうも月に降り立ったかのような臨場感。この辺は「月は地獄だ!」及び「星を継ぐもの」も連想しました。


そして、絶望のセカンドと対比しての癒しと前進の物語であるアクアシナリオ。こちらもセットで素晴らしい。見事としか言いようがありませんでした。やっぱりヒロインの一人称は感情移入に絶大な効果がありますねえ。Fateの凛の人気も、プロローグによる部分が結構大きいかと。



文章は、特筆するようなものは感じませんでしたが、逆に言えばそのクセのなさが万人受けしそうです。長さも適度で(明香はちょっと短いと感じましたが)、次へ次へと読み進めたくなる魅力がありました。


<キャラクター>
総評というかキャラ語りですね。こっちもざっくり反転しておきます。


○アリエス
物語最初に登場し、サイトのキャラ紹介でも一番上の、一見メインヒロイン。しかしてその実態は、ほとんど全編通した脇役でした。いやまあ、一応ファーストエピソードではヒロインではありましたけどね。彼女の本領というか本性はやはり他のシナリオでこそ発揮されていると言えるでしょう。


正直言うと、いまいち性格のつかめなかった感はあります。序盤の記憶喪失時には幼さと純真さが強調されていましたが、同時に卓越したプログラム技能と、陽一への思慕等、年相応以上の感覚をもつ部分もあり、時にはアクアに対しても強い意志と言葉で立ち向かう。なかなかに印象が統一しづらかったり。もちろん、総合的には良い子なんですけどね。


アリエスシナリオでは事故の真相を知ることなく、罪の意識を背負ったままに、明香シナリオでは記憶すら戻らずに宇宙に帰った彼女。その先待つのはどんな道なのでしょうか。やっぱり葵シナリオこそが彼女のトゥルーなのかもしれませんね。


ところで、『触るな』エンドって、あれ結局なんだったんでしょうか?



○アクア
いわずと知れた本作のメインヒロイン(認定)。当初は2番目、3番目のキャラかと思いきや、予想を覆す快進撃で「ひまわり=アクアの話」という認識を完全に固めたパワフルなお方です。ご多聞に漏れず、僕も好きですよアクア。パッケージをよく見ると、アクアのほうがアリエスより目立ってるんですよね。いやいや、騙されました。


ところで、彼女の中に目覚めた明香里の記憶については、結局明は知らないままなんでしたっけ? まあ、その後2年で知った可能性はありますが。彼女にとって明香里は一応母であり、同時にその記憶を持っているわけですから、本当にややこしい関係ですよね。「娘」である明香の成長した姿を見たとき、複雑な思いが去来したのではないでしょうか。


シナリオは本作では貴重な掛け値なしのハッピーエンド。どうかいつまでも笑顔で。



○西園寺明香
もっと出番がほしかったですねえ。他のヒロインに比べると地味な感は否めません。母親をなぞるように、陽一と銀河と一緒に宇宙部で和気藹々な姿が見たかったですよ。ところで、彼女が後ろ手に組んで半身になっている姿勢は、どこか八神はやてを思い起こさせる絵でよかったと思います。はい。



○アオイ
もっと出番がほしかった人その2。日向葵シナリオも実質はアリエスシナリオである状況を見ますに、せめてTIPSをまとめてグレードアップしたようなショートエピソードが見たかったです。



○雨宮大吾
アクアがあこがれるのも納得なかっこよさ。まあ、いくらなんでも犯罪的なセクハラ過ぎて、惚れる前に放り出されるべきであろうと思うのですが、あけっぴろげな人懐っこさと行動力、子どものような純真さは確かに一代の英雄、規格外の人物と思わされました。



○日向陽一
一応主人公なのにあまり語ることが思い浮かばないような。でも取り立てて反発するようなことがありませんでしたから、プレーヤーの感情移入の対象としては十分だったと言えましょう。




<絵>
同人ということもあり、それほど高い期待をしないレベルで言えば十分かと。立ち絵がしっかりしていた分、一枚絵がやや弱く感じられました。それでも、月面上のアクアと大吾の図は秀逸。



<BGM>
音楽鑑賞モードを開くとびっくりの曲数。これだけ多いと一曲あたりの印象が薄くなってしまうのはやむをえないところでしょうが、場面場面でしっかりと役割を果たしていたと思います。


ただ、惜しむらくは歌のないこと。もちろん同人作品としての難しさはあることでしょうが、エンディングでたとえば家族計画や君が望む永遠のような、切なくも前向きなバラードを流してくれた日には、おそらく落涙やまなかったことでしょう。



<システム>
各種機能を取り揃え、不足は感じられません。快適です。ただちょっとだけ気になったのが、アスペクト比固定の問題。どうやらソフト側で自動的にアス固定してくれる優れものみたいなのですが、微妙に上下が切れているような。おまけに、ディスプレイのアス固定モードを有効にしていると、二重に補正がかかって画面が細長いことに(笑)。まあ、プレイ上支障は無いレベルですけどね。



<まとめ>
非常に面白い作品でした。良質なSFであり、青春もの。過去プレイした美少女ゲームでもトップクラスの評価で、これで1365円という価格は、コストパフォーマンスがすごすぎで申し訳なくなってしまうほどです。未プレイの皆さんには、ぜひともプレイをお薦めいたします。