「星新一 一〇〇一話をつくった人」

星新一 一〇〇一話をつくった人

星新一 一〇〇一話をつくった人

星新一さんのショートショートは多分ほとんど全部読んでいます。僕のみならず、そういう人は多いことでしょう(特にアニメファンとは親和性高いかもしれませんね。SFとアニメは割と近い位置にありますし)。


教科書にも作品が載り、ほとんど誰もが知っている国民的作家。しかしながら、その割りに当人の素顔はそれほど伝わっていなかったと思います。それはおそらく、極限までムダがそぎ落とされた作風にも原因があったのでしょう。透明感のある文体は作者の印象を弱めてもいました。だからこそ読みやすくもあるのですが。


本書はその星新一の生涯に迫った大作ノンフィクションです。星さんが星製薬の御曹司であり、その借金に苦労したことや、仲間内では豪快な冗談を飛ばすユニークな人であることくらいは知っていましたが、家庭内ではまた別の顔をみせていたということ、またマンネリと低評価に苦しみながらも1001編の達成に想像以上の熱意を燃やしていたということ。そうした数々の逸話が興味深く読めました。


マイペースで淡々とショートショートを描いていたイメージのある星さんですが、やはり文壇からの低い扱いには釈然としないところがあったのですねえ。また、若い頃に経営で苦労したからこそ、あのサラリとした文章につながったという著者の分析もわかるような気がしました。



「星さんはやはり偉大だった」



読み終えて結局のところ、そう思いました。あらためて。別に賞なんかもらわなくても星さんのショートショートはきっと不滅ですよ。今後も読み次がれていくことは間違いないだろうと、そう思うのです。



余談ですが、本書では日本SF黎明期のエピソードも色々書かれていて面白かったです。今でこそ当たり前に普及しているSFですが、当初は本当に弱々しくて、レベルの低いものとみなされていたのだなあと。そこで頑張った先人達がいてくれたからこそ、数々の楽しいSFが読める。ありがたいことです。