「イリアム」

イリアム (海外SFノヴェルズ)

イリアム (海外SFノヴェルズ)

遅ればせながらイリアムです。「ハイペリオン」作者の新作ということで話題なのはいうまでもないところ。大作なので図書館で二回に分けて借りないと読みきれませんでしたよ。


時は数千年の未来。火星のオリュンポス山に本当にギリシャ神話の神々(らしきもの)が闊歩し、ホメロス叙事詩さながらの戦争が行われているという突っ走った設定に、いきなり驚かされます。「なんだそりゃ」って感じですね。加えて、地球上にはかつての文明を忘れ管理された人間達が、木星以降の惑星系にはモラヴェックと呼ばれる人工生命体達が存在し、それぞれの物語が次第に交差していきます。


膨大な設定と多くのキャラクターを捌いてみせる作者の筆力はさすが。ただ、いかんせんギリシャ神話に慣れ親しんでいない日本読者としては楽しみ方に限界があったのも否めません。ゼウスとかアキレウスとか有名どころの名前は分かるにしても、細かいことは知識不足なもので。もちろん、最低限の説明はしてくれていますが、ホメロスに詳しければなお楽しめたのではないかと思います。あ、あとプルーストシェイクスピアにも。


気になったのは、地球上の人類が文字も読めず、物語も語れないほどに「退化」しているにも関わらず、ディーマンらの行動が現代人と変わらない程度には合理的な点で、ちょっとご都合主義のようにも感じられました。あとマーンムートやオルフの外見がいまいち想像できません。挿絵希望。


すごい作品であることは間違いないと思いますが、文句無く面白いというには微妙に好みが合わないような気もします。もっとも、782ページという大著でありながら、まだまだ上巻であるわけで、現時点では評価はしきれません。とりあえず次巻待ちってことですかね。