「銀盤カレイドスコープ 8・9」


自分に文章力の無いことが残念でなりません。この作品の素晴らしさを口を極めて賞賛したいのに、どうしても不十分にしかならなさそうで。もうこうなったら「なんでも良いから読め」と言うのが一番良いかもしれません。これまで今シリーズを読まれている方は当然買うことでしょうが、未読の人、もしくはアニメ版だけの人に言いたいです。今からでも遅くは無いので1巻から読んでみてください、と。「銀盤」は僕が今まで読んだスポーツ小説の中でもっとも面白かった作品であり、もしかしたらライトノベルの枠で見てもベストであるかもしれない一作なのですから。


読んでいる最中、ページをめくる手ももどかしく、さりとて終わって欲しくないという相反した思いに心が裂かれました。これだけ物語の世界に入り込んだのも久しぶりであり、嬉しい予想外の2巻同時発売で、たっぷりと浸らせていただきました。ありがとうさようなら桜野タズサ……。


さて、以下はネタバレで。



巻末でイラストの鈴平ひろさんが書かれていることと重なりますが、「意外性と王道の両立!」 ラスト2巻はそれに尽きると思います。十分なメンタルを身につけたはずのタズサがまさかの不眠状態に陥ってしまい、そこから奇跡的演技を見せた8巻。その勢いでついにオリンピック制覇かと予感させるも、超越的なリアの存在感に圧倒され、奈落の底に落とされる悲劇。


前々から感じていたことですが、海原さんは失敗したとき、絶望感に打ちひしがれているときの描写が本当にうまいと思います。オリンピックのフリーでタズサが一見開き直ったようなのがやはりダメで、次々と失敗の連鎖にはまり込んでいくシーンは印象的でした。タズサならずとも悪夢のような感覚を味わいました。ちょっとやそっとでは利かないほどに落ち込んで、それでもまたリンクへ戻ってくる流れもしっかりしています。


そしてラスト・シンデレラへ……。正直、どうやったらリアに勝てるのか、勝つとして納得できる描写ができるのかと疑問もあったのですが……もううならされるばかりでした。努力と才能を持つものだけがたどり着ける喜びと苦悩の境地。今作全体を通じて、教えられたことのような気がします。



思い起こせば3年前。「ちょっと人気」くらいの噂を聞いて初めて手に取ったスーパーダッシュ文庫。ここまでのシリーズになるとは思いませんでした。本来2巻完結であったはずの作品を伸ばしたために多少不安定な構成になったと思うのですが、次第にそんなことを忘れるほどの勢いを持った物語になってくれました。タズサのキャラ造形がホント上手かったですよね。


最終巻、再登場はないにしても(あっても困りますし)ほんの少しでもピートの名前が出てくるのではないかと思いました。でもありませんでしたね。ただ、彼女が(そして作者も)彼のことを決して忘れているのでないことは十分伝わってきました。多分、これで良いのでしょう。


どうか、素晴らしきスケーターたちの未来に幸運を。