9・総評

*シナリオ
「個別はいまいち、ラストは良い」というのが世間の評であり、実際まったくそのとおりではあったのですが、さて、では全体ではどうなのかというと、やっぱりいまひとつだった、と言わざるをえない気がいたします。


衝撃的な設定が明かされたRefrainプレイから数日。各考察サイトなども見つつ理解したところでは、基本的に作中は理樹と鈴も含めた10人がバス事故の刹那に作り上げた虚構世界であり、二人の成長のために何度も同じ時が繰り返されている、ということですよね。それは確かにメタ的で面白い。面白いのですが、やっぱり色々と疑問は出てきてしまいます。


特に大きいのはやはり、一体個別シナリオの意義は何だったのか、ということ。


作中的に考えれば、これは理樹の成長というより、各ヒロインの願望充足のために理樹と虚構世界が活用された、ということなのかもしれません。各ヒロインが持っていた後悔や悩みが解決されていくストーリー。不自然なほどきつい佳奈多の葉留佳に対する罵声も、現実の佳奈多ではなく、葉留佳の裏返した願望によるもの、と捉えれば納得できないこともないです。


ただ、あれが虚構というなら、葉留佳の両親や、そこで明かされた「真実」はどこから来たものなのでしょうか? 小毬の「祖父」の話にしてもしかり。彼は本当に小毬の関係者であったのか? それとも虚構世界の小毬か理樹の願望が、彼にそう語らせただけなのか? 考察不足なのかもしれませんが、どうもこのあたり、「どこまで本当だか分からない」感が強く残ってしまいます。


さらに、プレーヤーの視点から見ると、「ハッピーエンドの世界もリセットされてしまう」という作り自体に不満が残ります。本作では個別シナリオに未来がありません。各ヒロインとの親密な進展を見てきたプレーヤーとすると、オーラスの理樹との距離感はいささかやるせないものがありました。端的に書くと、美魚シナリオ好きなんで、無かったことにされると悲しいのです。この辺あまり感じさせなかったCROSS†CHANNELはやっぱりすごかったのかも。


個別シナリオにはラストに向けての伏線という意味合いもありましたが、これもあんまり上手く機能しているようには見えなかったなあ。「世界のおかしさ」をゾクゾクと感じさせたのは来ヶ谷シナリオくらいで、クドシナリオあたりでは世界ではなくてシナリオのほうがおかしいとしか感じられませんでしたからね……。惜しいことです。


あと、最後の最後のあっさり感ですか。「みんなはもうバス事故で助からないから、せめて二人だけでも」という悲壮な決意が語られていたわりには、バスから運び出しただけで無事というのはやや拍子抜けではありました。もちろん理樹や鈴の活躍はかっこよかったですけど、「事故の時点で致命傷」のイメージがあったものですから。深読みして、「ハッピーエンドは虚構」という見方もありますが、それはそれで辛すぎますしねえ。



*絵
樋上いたるさんとNaGaさんの絵はやっぱり差が感じられますが、大きな問題ではないということにしましょう。それより今回、意外と背景が印象に残らなかったような気がするのですよ。Keyの絵はキャラよりも美麗な背景の重要性が高いと思っているだけに、今作の評価に微妙に影響している気がしないでもありません。



*音楽・声
従来のKEYの音楽を期待してた部分があっただけに、ちょっと戸惑いました。PMMKさんやManackさんによってもたらされた新風味。とくにキャラテーマはコミカルなノリの軽快な曲が多く、これはこれで良いと感じさせました。「えきぞちっく・といぼっくす」「騒がし乙女の憂鬱」「お砂糖ふたつ」「死闘は凛然なりて」「ともしび」「無題『恋心を奏でる綺想曲』」などがお気に入り。でも一番好きなのはやっぱりおなじみ折戸さん節の「光に寄せて」だったりするんですけどね。


主題歌含む歌はそれほど強烈には残らず。でもさすがに「遥か彼方」は感動でした。……ちなみに、今変換しようとしたところで「葉留佳佳奈多」となることに気づきました。そうだったのか……。


声は、小毬がちょっとわざとっぽさというか、無理に聞こえたです。それ以外は問題なく。



*システム
今までのKEY作品では絶対に足りなかったセーブポイントがあまりました。これはびっくり。セーブ数自体はクラナド同様ですが、利用個所が少なかったかも。さすがに近年の作品だけあり、取り立てて不満はありませんでしたね。



*総評
残念ながら、私的殿堂入りの歴代KEY作品と比べると、やはり落ちます。僕の場合、購入したのが去年の8月で、クリアまでに9ヶ月ほどもかかってしまったのが、正直な評価という感じですね。「先を見たい」という欲求がそれほど薄かったということです。Refrain部分はあっという間だったんですけどねえ。


世界観と、張り巡らされた伏線、構成はなかなかのものだったのですが、これまでのKEYにあった底の見えない魅力・輝きが本作にはほとんど感じられませんでした。同じことを繰り返していてもしょうがないというのはあるでしょうし、KEYの転換点として、多少実験作だったんだろうなとも思います。総評としては「佳作」ということで(……ところで、佳作と良作ってどっちが上なんでしょう?)。