「アメリカン・スナイパー」

http://wwws.warnerbros.co.jp/americansniper/


観てきましたよ。評判通りの重厚で面白い作品でした。傑作だと思います。


アメリカの伝説的な狙撃手、クリス・カイルを主人公とした物語。伝説というから随分前の話なのかと思いきや、舞台はイラク戦争ですから、思った以上に現代でした。クリスは祖国を守るべく軍人となり、猛訓練を突破して特殊部隊のシールズに入隊。4回もイラクに派遣され、持ち前の狙撃の腕で戦果を上げていきます。


すごいのはまず、戦場のリアリティ。本当にイラクで起こった戦闘をそのまま撮影しているのではないかと思ってしまうほどの迫力でした。乾燥した黄色い空気、銃撃、爆発、そして狙撃。スコープから相手を見定め、引き金を引くと相手が倒れる。この重さが伝わってくるのです。女性や子供であっても、敵であれば撃たなければならない。緊張に息が詰まります。あらためて、ハリウッドとイーストウッド監督の力量に脱帽でした。


本作では、反戦というテーマは表立っては描かれていません。クリスはあくまでアメリカ軍の英雄であり、強い男です。クリス自身、多くの敵を殺したというのは、それだけ味方を救ったということであると作中で語っています。さらに、戦場のトラウマに苦しみながらも家族を大事にする人物としても描かれています。


ただ、全体を通してみると、単なる戦意高揚の英雄賛歌でないことも分かります。イラクで戦闘を呼び込み、現地住民に嫌われるアメリカ軍。泥沼化する戦争で次々と倒れていく味方たち。そして戦場が生み出す心身のダメージは、クリスをも襲います。アメリカを守るために軍人になったのに、遠いイラクで戦う意義は本当にあったのか? 今作は観客に静かに問いかけてきます。日本人が見てもそうなのですから、アメリカ人はどう受け止めたのでしょうか?


ラスト、軍を辞め、しだいに健康を取り戻したクリスは、家族とともに平穏に暮らしていましたが、援助しようとした元海兵隊員に殺されるという衝撃の幕切れで終わります。これが実話だというのだからやりきれません。そして、大々的に行われる葬儀。最後は実際の映像を使っているのでしょうか? 沿道に無数にはためく巨大なアメリカ国旗は、クリスに対する哀悼の意であることは分かる反面、どことなく白々しさをも感じさせるのでした。アメリカという国は、逆にそこまでアメリカであるということを強調しないと、やっていけないのかなと。


ところで、クリスの弟はどうなったんですかね? イラクに派兵されたところを再会するシーンはありましたが、その後は出てきてなかったような。死んだという描写がない以上、なんとか無事だったんでしょうか。