「人類の月面着陸はあったんだ論」

人類の月面着陸はあったんだ論―と学会レポート

人類の月面着陸はあったんだ論―と学会レポート


評論家の副島隆彦氏が「人類の月面着陸は無かったろう論」という奇書を発表して世間(の一部)を驚愕させたのが2004年。もう、一昔前と言っても良い時代になりましたが、当時は「ムーンホークス(月面着陸捏造説)」が少し流行してしまったものでした。本書はおなじみと学会によるムーンホークス反論本であり、読みやすくまとまっています。単に細かな点の反論にとどまらず、ムーンホークスの歴史や背景を解説してくれるのがありがたいところ。もちろん、副島さんの本もきっちり検証・批判してくれます。


もっとも、反論するまでもなく捏造なんてありえないだろうといえばそれまでなんですけどね。僕は副島さんが他にどういう主張をしているのかといったことはあまり詳しくないのですが、「無かったろう論」を見かけて以来、「この人の言うことは信用ならない」と胸に刻んでおりますよ。そりゃまあ、専門の知識ではしっかりしてても、専門外では頓珍漢なことを語ってしまうというパターンもあるのでしょうが、そういうのとはレベルが違います。原書は読んでいませんが、本書で引用されている部分は、それだけで色々とひどいもの。一番不思議なのが、どうみても物理学や宇宙学で専門ではない副島さんが、まったく調べる手間をかけること無く自説(というか思い込み)を自信満々に展開していることですね。もちろん、反論はすべてアメリカ政府のデマ・プロパガンダなのです。まあ、こういうのは副島さんのみならず陰謀論の著者にありがちな態度ではありますが、なんで素人が気づくことに専門家が気づかないのかとか、そんな世界的隠蔽工作するくらいなら、月に行ったほうが簡単だろうとか、そういう発想はないようです。


なんでも、副島さんはアポロが月に行った明白な証拠が出てきたら断筆すると宣言しているとのこと。しかし昨今も普通に本を出していることから、副島さんにとってはまだまだ「明白」ではない模様で。せっかくなので、今回の中国の月探査船が何か証拠を追加してくれないかと思うのですが、場所が違うのかな……。


それにしても、世に陰謀論も尽きませんね。ムーンホークス論レベルに変なものならまだ「罪もない与太話」で済むのかもしれませんが、こういう陰謀論的な思考というのは、意外と世の中にとって危険なものではないかという気もします。結局陰謀論って「自分は被害にあってる・騙されている」という形を取りますからね。「○○が悪いのはあいつらのせいだ」という妄想の拡大は、容易に差別や冤罪につながります。世の中の主流意見が常に正しいとはかぎりませんが、主流ではない意見を聞くときには、やはり冷静にいくことでしょう。しみじみと自戒を込めつつ思います。