「ブラック・スワン」

ブラック・スワン」とは(中略)、ほとんどありえない事象、誰も予想しなかった事象の意味である。タレブによれば、「ブラック・スワン」には三つの特徴がある。一つは予測できないこと。二つ目は非常に強いインパクトをもたらすこと。そして三つ目は、いったん起きてしまうと、いかにもそれらしい説明がなされ、実際よりも偶然には見えなくなったり、最初からわかっていたような気にさせられたりすることだ。


先日読んだ「錯覚の科学」は、人間の現在や過去の認識の不確かさについて書かれた本でしたが、こちらの「ブラック・スワン」は未来予測の不確かさについて書かれた本でした。別に意図して続けて読んだわけでもないのですが、過去・現在・未来と人間の能力はさっぱりって感じです。


上下巻ありますが、著者の主張はシンプルです。


「世の中の事象は不確実で、どんなに予想しようと思っても予想しきれない部分がある」


これは当たり前の事のようですが、実際には「未来が予想できる」と思い込んで行動してしまっている人々がたくさんいると著者は指摘します。特に、経済学者や金融業界は、本来当てはめるべきではない事象にベル型カーブ(「正規分布」というやつです)を当てはめ、数式をくっつけているが、現実はそんな理屈どおりにはならないということを口を酸っぱくして書いています。確かに、金融系の本を読んでいると、そんな感じの表をよく見かけるような気がしますね。


本書はリーマンショックの直前に出版され、予言的な書として話題になったそうですが、今読む日本人としては、むしろ今年の震災、なかんずく福島原発事故のことを連想してなりませんでした。日本は地震国であって、地震自体にはそれなりに備えがあったはずです。しかし、あれほどの大地震が来るとは、そして津波原発の電源がやられ、深刻な事態になるとは、ほとんどすべての人が予想していませんでした。専門の学者だって大丈夫だと言っていました。その神話があっという間に崩れたのは、まさにブラックスワンの到来だったと言えましょう。上記引用の「あとから説明がつけられる」も当てはまってますし。


もっとも、ブラックスワンに対してどう対応すべきか、という点は著者の答えもちょっと曖昧な気がしました。まあ、定義からして予測できないものなのですから、対応が難しいのはやむを得ないのかもですが、本書はあくまで警鐘の書であって対策本ではないのかもしれませんね(あるいは、僕の読取不十分なためかもしれませんが)。理論も常識も過信せず、心のどこかで備えておくよう、せめて注意したいものです。