「メディア・コントロール」

メディア・コントロール―正義なき民主主義と国際社会 (集英社新書)

メディア・コントロール―正義なき民主主義と国際社会 (集英社新書)

言語学者として有名なチョムスキー氏ですが、社会情勢についても積極的に発言してきた思想家だったのですね。知りませんでした。本書では、アメリカの行ってきた対外軍事政策――ベトナム戦争湾岸戦争、そして今回の「対テロ戦争」まで――が鋭く批判されています。とりわけ論の中心となっているのが、タイトルにもなっているメディアの有り方であり、「政府を始めとする特権階級はメディアを用いて大衆を洗脳し、自らの都合の良いように世論を操っている」という指摘から、過去の実例が紹介されていきます。


他国の軍事政権を援助し、人権抑圧に手をかしながら、自分に都合の悪いときは「侵略者」「残虐行為」を口実に軍事介入するアメリカのダブルスタンダード。反対者に対しては「アンチ・アメリカ」(日本で言えば「反日」みたいなものでしょうか)とレッテル張りをして黙らせる手法。こうした状況に迎合してきたメディア、ジャーナリストにも批判は向けられます。


巻末には日本の作家辺見庸さんによるインタビューも収録されています。辺見氏自身も書かれていますが、ここではチョムスキー氏の迫力に、辺見氏も押されっぱなしといった感じ。まさに硬骨漢といいますか、筋金入りの反体制知識人といった印象ですね。


正直言うと「特権階級が大衆を洗脳している」という構図はいささか古臭いのではないか、という思いもありました。何しろ時代はインターネット。むしろ政府が情報を制御できずに困っている感さえあるところです(一部の人に言わせると今の政府こそが「反日的」だそうですから、もう何が何やら)。とはいえ、情報を操作したい財力・権力を持った階級は存在し続けているわけで、メディアによるコントロールには今後とも十分に注意するべきなのでしょう。その点では、先の震災・原発事故の報道にも、考えさせられるものがありました。


インタビューの最後には、チョムスキー氏から日本人向けにも一言ありました。

東京にいて「アメリカ人はなんてひどいことするんだ」といっているのは簡単です。日本のひとたちがいましなければならないのは、東京を見ること、鏡をのぞいてみることです」


痛烈ですね。