「天才たちの誤算―ドキュメントLTCM破綻」

天才たちの誤算―ドキュメントLTCM破綻

天才たちの誤算―ドキュメントLTCM破綻

面白かった。久々に夜更かしして読みふけってしまいました。


時に1994年。ノーベル賞学者を含む天才トレーダーたちが結集して運用開始したヘッジファンド、ロングターム・キャピタル・マネージメントの盛衰記。彼らはその精妙な理論を駆使した取引で莫大な運用益をあげますが、やがて理論と現実の差の前に崩壊することになります。


多少の概要は知ってはいましたが、実にスリリングなドラマとして読ませてくれました。良くも悪くも個性的なロングタームメンバーや、彼らを賞賛し、投資しつつも反発も覚えるウォール街銀行の面々。ドキュメントとして一級の読み物だと思います。


ロングタームの基本戦略は債権のスプレッドによる裁定取引でした。ほんの僅かな市場の歪みにより生じた価格差に、驚異的なレバレッジを掛けて資金を吸い上げる。その手法は当初はうまく行きましたが、次第にロングタームの資金が大きくなりすぎ、身動きが取りにくくなっていきます。そして、次第に本来の手法ではないリスクの高い取引に手を出していくのでした。


それでも、市場が理論通りの合理的な存在であれば問題はないはずでした。しかし、ロシア危機に端を発した混乱により、モデルは破綻。ロングタームはわずか5週間で壊滅します。著者は繰り返し、「理論には収まらない人間心理が動かす市場」について注意を促しています。本書を読む間、僕が常に思い出したのが、先日読んだ「愚者の黄金」でした。あちらはここ最近の金融危機を扱ったものなので、時代は10年ほど違うのですが、なんと似通った構図でしょう。「リスクを管理できる」と傲慢になった人間に、市場はしっぺ返しを食らわるのですね。というか、ITバブルといい金融界はおんなじこと繰り返し過ぎな気がしますが。


悠々と遊んで暮らせるだけの財産を築いたにもかかわらず、あくまでも上を目指し続けたのは少し不思議にも見えますが、彼らにとっては収益を上げることこそが自己実現であり、名誉になっていたようです。やはり人間心理というのは単純にはいきません。そういえば、この物語の後味がさほど悪くない理由に、不正だの横領だの改竄だのといった要素がないことがありました。結局彼らは、理論をどこまでも実践したい挑戦者だったのでしょう。


ロングタームの設立者でまとめ役であったメリウェザーが、その後あらたにファンドを立ち上げたところで本書は終わっています。大損失を出し、金融界に迷惑をかけておいて復帰とは、さすがアメリカ、良くも悪くも敗者復活が認められる国なのですね。で、いまはどうなったのか。Wikipediaで調べてみました。

・ジョン・メリウェザー
1999年にはLTCMの負債を返済し、新たにヘッジファンド・JWMパートナーズ(JWM Partners)を立ち上げ、運営していたが、2007年からはじまった世界金融危機_(2007年-)により大きなダメージを受け、2009年7月に閉鎖に追い込まれた。

現在は、三度目のヘッジファンドとなる、JM Advisorsを2010年に立ち上げ運営している。

……また潰してました。おいおい。