「北朝鮮 驚愕の教科書」
- 作者: 宮塚利雄,宮塚寿美子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/02/20
- メディア: 新書
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世界各国がどのような教科書を使っているか、とりわけ日本についてどう学んでいるか、というのはなかなか興味深いテーマです。僕もこれまでアメリカ等の教科書を紹介した本を何冊か読んできましたが、本書はありそうでなかった北朝鮮もの。個性が光ります。なぜ類書を見かけないかというと、要するに外国人には教科書が手に入らないという、単純にしてもっともな理由によるようなのですが、著者は長年の経験とフットワークでカバー。未知の世界を見せてくれました。
あの北朝鮮のことですから、教科書の方向性はおおむね読者の想像するとおりではあります。が、その予想以上に飛ばした内容は、本書のタイトル「驚愕」にふさわしいものがありました。何しろ全編にわたって「濃い」ので、引用する部分に迷ってしまうほどですが、小学1年生の国語の教科書からいくつか持ってきてみます。
敬愛する首領 金日成大元帥様が 信号銃を撃たれました タンタン、ドカーン 遊撃隊員たちは 普天堡のウエノム(倭奴)をことごとくやっつけました 人民は声をあげて万歳を叫びました
ウエノムというのが日本人に対する侮蔑用語なのは漢字から分かるとおり。小1からでも、金親子への忠誠と日本への敵対心を植えつけようという、当局の意図がひしひしと感じられます。
さらに、「日帝巡査野郎」を少年たちが襲い、殺してしまうという衝撃的な話もあります。もちろん(?)、彼らは勇敢で愛国的な少年として肯定的に書かれているのです。いくらなんでも殺人を褒めてたら駄目だろうと思いますが、これで教育される子供たちが不憫でなりません。
傑作なのは、「金正日大元帥が地球儀の日本の部分を黒く塗りつぶしたら、本当に日本中が真っ暗になり、雷鳴がとどろき、激しい雨が降り注いだ」というエピソード。
人々は偉大な領導者金正日元帥様は、空も土地も自由に動かされる才能をお持ちであると話しました。
なんというか、ここまで来ると反日とかそういう次元を超えて、トンデモ的に笑えるレベルではあるんですが、小1なら結構信じちゃうかもですねえ……。実際にこうした教育を受けてきた人々がたくさんいると考えると、笑えなくなってきます。
外から見ると変に思えても、実際に幼い頃からこうして教え続けられれば、多くの素直な人は信じてしまうでしょうし、有効だからこそこうした内容の教科書が使われているのでしょう。教育の怖さと重要性をあらためて思わされもしました。