「気候文明史」

気候文明史

気候文明史

人類の歴史は気候に大きく左右されてきました。温暖で安定した数百年が大帝国の成長を支え、冷涼な数百年が国家の分裂と新たな社会の礎となり。そんな、気候から見た人類史を概説した一冊。学術書というほど固くはなく、さりとて内容を崩しすぎてもいない、しっかりと楽しめる一冊でした。もともと好みのジャンルなんですが、この手の本は海外の翻訳モノが多い中、日本人著者ということもあり、読みやすいのもありがたいところ。


今は地球温暖化が大問題になっていますが、歴史的に人類を苦しめてきたのは、むしろ寒冷化でした。火山の噴火や太陽活動の停滞で、ほんの1、2度平均気温が下がるだけで、文明は大打撃を受けてきました。特に印象的だったのはグリーンランド入植のエピソードです。中世温暖期と呼ばれる時代、ヴァイキンググリーンランドに上陸した時、そこは牧草が育ち、それなりに過ごしやすい土地でした。しかし、13世紀以降の小氷期に入ると、穀物は育たなくなり、さらには流氷の増加で船の往来も無くなってしまいます。やがて植民地は孤立のうちに消えていきました。最後に残された移住者達は、自分達に悲劇をもたらした気候の変化に何を思ったのでしょうか。なんとも痛ましい話です。


ただ、そんな人間レベルでは大きな変動も、地球全体で見れば小さなもので、約1万2000年ほど前から現在までは、気候史レベルで見ると非常に安定して温暖な気候であるのだそうです。1万2000年と言えば、それは結局人類の歴史そのものです。ロマンと言いますか、大自然の中で生かされてきた人間というスケールで物事が見えてくるようですね。


現代文明の只中にいるとつい忘れがちなのですが、今でも人は、気候の変動の前にほとんど無力であったりします。本当に温暖化が破滅的なほど進んでいくのか。あるいは再度氷期がやってくるのか(打ち消しあってくれれば良いのになあ……)、いずれにしても、気候の恩恵を受け、あるいはその厳しさと戦っていくのが人類の宿命なのでしょうね。