「ワインの帝王 ロバート・パーカー」

ワインの帝王ロバート・パーカー

ワインの帝王ロバート・パーカー

ちょっとしたワイン売り場に寄ると、たいてい目に入ってくるもの。それがロバート・パーカー氏による得点を示したポップです。「パーカーポイント90点」みたいな。ワインファンとはいえないレベルの僕ですら名前を知っている、まさに世界的権威。果たして彼は何者なのか。そんな興味からこの本を手に取りました。


アメリカの片田舎に生まれ、ワインに縁の無かったパーカーでしたが、大学時代に訪れたヨーロッパでその虜になり、弁護士業のかたわら、ワイン評論の同人誌を発行。それが次第に評判を呼んで、とうとう専業化。その後、消費者のみならず、生産者も小売業者も彼の採点に一喜一憂するまでの影響力をもつようになる――。


無名のワイン好き青年が、独自の評論でのしあがる。アメリカ的なサクセスストーリーですね。どんな分野にも、時代に要請された巨人というのが現れたりするもので、ワイン業界ではパーカーがそれにあたるのかもしれない、などと思わされもしました。


ただ、パーカーの影響力は本人も意図していなかったほど巨大になってしまい、やがて強い批判が浴びせられるようになります。いわく、「多様なワインを100点満点で一律に評価するのは無理」「結局パーカー好みのワインしか高得点にならない」「フランスワインの伝統を壊す」等々。本書は、批判者側の言い分もきっちりと取り上げています。


読み終えて印象的だったのは、パーカーの揺るぎのなさでした。一貫して消費者側に立ち、生産者、小売業者と馴れ合ったりしないという意識です。常人であれば、これだけの権力を握れば、ワイン業界から献金をもらって高得点をつけるとかやってしまいそうなものです。しかし、本書を信じるかぎり、パーカーにはそんな気配がありません。あくまで「一消費者」としての立場を(少なくとも建前では)崩さないでいるのです。それは同時に、批判を受けつけないという頑固さにもつながっているのでしょうが、なかなか出来ることではないと思いました。


作り手側からすると、パーカー1人の、それもたいていは一回きりのテイスティングによる採点で大きく売り上げが変わってしまうのですから、いらだつのも無理はないところでしょう。特に本場フランスから見ると、パーカーは外国人に過ぎないのですから。ただ、これはパーカーの責任というよりは、パーカーの評価をうのみにするしかない、販売者・消費者側の文化に問題があるようにも思われます。パーカーに負けない多彩な評論がどんどん出てきて、消費者も自分の好みを見極められるような日が、そのうち来るんじゃないでしょうかね。


で、僕はというと、今度買うときはパーカーポイント90点以上のにしてみようかと思います。いやまあ、せっかくこの本を読んだことですし、自分の評価と比べてみようかなと。なんだかんだ言っても、パーカー氏の力がここまで大きくなったのは、彼のワイン評価がそれなりに消費者から受け入れられたからだとも思いますしね(じゃなきゃ、いくら時流に乗っても長続きはしなかったでしょう)。