「マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男」

マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男

マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男

発表以来、アメリカはもちろん日本でも大きな反響を巻き起こした一冊。発売からすでに5年がすぎて、野球好きにはもはや常識ともなりつつある本書ですが、未読だったのでいまさらながら手を出してみました。いや面白かった。


出塁率の重視」「バントや盗塁、守備力の軽視」といったマネー・ボール的戦略の概要はさんざん聞いていたので目新しいことは無いかなと思っていたんですが、早計でした。こうした一つ一つの戦略もさることながら、読みどころは生き生きと書かれるビリー・ビーンGMやアスレチックス内の様子です。


ビーンGMは理性優先の冷静な人物かと思っていましたが、結構激情型で、客観を重視しつつも、時には主観に流されたりするあたりが意外でした。いちいち指令をするGMというのは、選手や現場の監督からはやっかいでしょうねえ。おまけに古参のスカウトは次々と解雇。チーム内の反発は強かったことでしょう。その一方、新しい視点の下で見出された選手達の活躍ぶりは痛快でもありました。


スカウトが「素質重視」「高校生の将来性を好む」なんてのは日本でもありそうな話です。統計的には大学生・社会人の方が活躍率が高いのは日本でも同じなんですけどね(もっとも、日本は甲子園というレベルの高い大会があるので、事情は多少違うでしょうけど)。


あと、日本球界に関連した選手が結構登場するのも面白いところ。アスレチックスのスカウトだったマット・キーオ(元阪神)ですとか、ビーンと同期でテストを受けたダーネル・コールズ(元中日)ですとか。阪神暗黒時代を支えたキーオですが、メジャーでも結構活躍した選手だったんですね。知りませんでしたよ。こうしてみると、思った以上に日米球界は交流が深いのかもしれません。


もっとも、本書が書かれてより時は過ぎ、本書中のドラフト会議で、ビーンがもっともほしがった選手、ジェレミー・ブラウンはどうやら結果を残せず引退してしまったようで。いかなデータ・戦略も万能では無いということとともに、野球界の厳しさを痛感するところでもあります。


セイバーメトリクスの考え方については色々思うところもあるのですが、そのへんはまたいつか。とにかく、本書は今読んでも大変面白い、野球ファン必読の一冊だと思いました。