「荒野」

荒野

荒野

出版されていながら数ヶ月間も気づかなかったとは不覚。「荒野の恋」の続きはまだか〜なんて思ってしまっていてすみませんでした>桜庭先生。でも、タイトル変わっちゃってるとは思わなかったです。あと、文庫版1・2巻を買った人には500円引きくらいしてくれるとお財布に優しかったです。いやまあ、無理なことは分かっているんですが。


さて、ということで、待ちに待っていた「荒野の恋」完結編。ほとんど一気読みいたしました。面白かった〜。出会えて待ってて気づいて良かったです。少女から大人の女へと移り変わっていく主人公、山野内荒野の青春物語。


桜庭さんの書く少女の日常は、ビビッドと言いましょうか、とにかく瑞々しくて、まるで文章から果汁が染み出して来そうな味わいがあります。思春期の、繊細で、なにか重苦しくて、でも楽しいこともあって、頑張って生きている荒野の姿が切なくて楽しくて。胸にずんずん迫ってきますよ。


以下ネタバレ的に。


注目の第3部。蓉子さんに赤ちゃんが生まれて、荒野は高校生になって、悠也は東京の高校に行って、パパは相変わらず女性の間をフラフラ泣かせつつ小説を書いて、何が起こるかというと大事件は何も起こっていないのに、それでも荒野が少しずつ大人になっていくのがわかるというのが素晴らしい。


荒野と悠也との間には意外なほどに波乱が無くて、普通に恋人同士していますね。むしろ父親と、義理の母である蓉子さんと、父親の周りの女たち。そして友人の絵里華や麻美との関係性が主になっている感もあり、その点で「荒野の恋」のタイトルはふさわしくなくなったのかも。でも、荒野は父親に関わるドロドロした愛憎を色々見てしまっているわけですから、悠也との間だけは平穏でも良いのかもしれません。物足りないといえば物足りないんですが。そうそう、江里華の荒野に対する気持ちに区切りがついたのも何よりでした。


最初は「大人」である蓉子さんや父親に対して「子ども」の目線でしか関われなかった荒野がいつの間にか、対等に近づいていくのが、絶妙。細かい動作、会話の一つ一つの描写に、成長が見えるのがすごい。


そしてラスト。この寂しさは何かと思います。決して暗い物語ではないはずなのに、泣きたくなってしまうような。「青春」という二度と無い一時期に対する、望郷と追憶の念がそうさせるのでしょうか。現役の中高生が読んだらどう感じるのかも気になりますね(その意味では、文庫から一般書籍になってしまったのは痛かった。ついでに言うと、ミギー氏のイラストが無くなったのも痛い)。


なお、加筆修正されているとのことですが、一読した限りではビデオがDVDになったくらいしか分からなかったり。DVDの時代を回想しているということは、序文の大人になった荒野っていつくらいの設定なんですかねえ。